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最終更新日:2017.12.12

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トピックス 2015.02.02

【研究発表】見つめ・見つめられて教えてくれるCGエージェント

1.発表者:

東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系 教授 開一夫
東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系 博士課程 イ・ハンジュ

2.発表のポイント:

*学習者と「視線」を用いた自然なやり取りを行うCGキャラクター(教師)を構築し、CGの教師が学生の視線に反応しながら外国語を教えると、学習効果が上がることを示した。
*コンピューターを用いた学習にて、社会的ジェスチャーへ反応的にふるまうことが学習に有効であることを初めて実証した。
*人間の学習メカニズムの解明および学習支援を行う人工エージェントの開発に役立つことが期待される。

3.発表概要:

近年、教育現場にICT(情報通信技術)が導入されつつあるが、その効果に関しては未解決の問題が多い。実際、高価な設備を導入しても、その活用は電子化された教科書レベルにとどまっている。
視線、表情など社会的ジェスチャーのやり取りは人間のコミュニケーションに欠かせない要素である。さらに脳科学の知見から、人間は社会的ジェスチャーに特化したユニークなシステムをもっており、こういった能力が学習と深い関係をもつ可能性が示唆されている。
東京大学大学院総合文化研究科の開教授と博士課程イ・ハンジュらは、視線トラッキングセンサーを用いて視線のインタラクションができるCGエージェントを作成し、大学生30人(女性7人、平均年齢20.2)を対象にした実験で、そのエージェントが学生の視線に瞬時に反応すると学習効果が上がることを実証した(図1参照)。

20150202topics_f01.jpg
図 1
(左)学習中の画面の様子。(右)条件群間の成績の比較。
エージェントが反応的にふるまうと(緑)、そうでない場合と比べて(白)、
学生の学習後の成績が有意に高かった。
 

さらに、視線の反応性によって学生らの注意パターンに変化が生じることが視線データの分析結果から分かった。反応的エージェントと学習した場合はそうでないエージェントと比べてエージェントおよび学習課題に対する平均注視時間(average fixation duration)が長く、学生の注意の移動が少なかったことがわかった。よって、反応的視線インタラクションが学習における注意の分配を助けたことが考えられる。

教育におけるICTの可能性を広げた本研究は、人間の学習と「視線」のやり取りとの関係の解明およびICTを用いた教育支援システムの開発に役立つと期待される。

4.発表内容:

近年、教育現場にICT(情報通信技術)が導入されつつあるが、その効果に関しては未解決の問題が多い。実際、高価な設備を導入しても、その活用は電子化された教科書レベルにとどまっている。

視線、表情など社会的ジェスチャーのやり取りは人間のコミュニケーションに欠かせない要素である。さらに脳科学の知見から、人間は社会的ジェスチャーに特化したユニークなシステムをもっており、こういった能力が学習と深い関係をもつ可能性が示唆されている。

社会的ジェスチャーをICT教育に取り入れる試みはICTの発展とともに90年代から本格的に始まった。多くの研究はCGキャラクターを用いて、動きの豊富さ、声の質などエージェントの要素が教育に及ぼす影響を調べている。

しかし、今まで反応性に着目した研究は少なかった。人間のコミュニケーションが本質的に反応的であるにも関わらず、先行研究では動きのリアルさなど、CGキャラクターそのものの質にとどまることが多かった。認知神経科学などの近年の成果から、社会的ジェスチャーに反応性を持たせるかそうでないかで、情報を受け取る側の脳の中での処理の仕方が変わってくる可能性が示唆されている。本研究はそういった流れの中で、反応性による学習への影響を調べた。

視線トラッキング技術を用いて、学生と視線のやり取りができるCGキャラクター、PAGI(Pedagogical Agent with Gaze Interaction)を作成した。PAGIは視線インタラクションの中で特に学習との関連性が高い要素(アイ・コンタクト、視線追従、共同注視)を学生に誘導する。PAGIは韓国語の学習経験のない大学生らに、韓国語の単語を教えた。学生らはlive, replayの2グループに分かれ、liveグループ(15名、女性4人、平均年齢20.0)はPAGIと視線のやりとりを行い、replayグループ(15名、女性3人、平均年齢20.4)はliveグループとのやり取りの内容をそのまま再生するPAGIの動きをみた。つまり、2グループは同じ動きをするCGエージェントを見ていたが、反応的かどうかが異なっていた。学生らは全部で60単語を学習した。

結果、liveグループの学生らはreplayグループと比較してより多くの単語を覚えることができた(図1参照)。これはコンピューターを用いた学習にて、社会的ジェスチャーへの反応性が学習に有効であることを支持する初めての結果である。

さらに、視線の反応性によって学生らの注意パターンに変化が生じることが視線データ分析の結果から分かった。反応的エージェントと学習した場合はそうでないエージェントと比べて、学習課題への平均注視時間(average fixation duration)が長く、画面上における学生の注意の移動が少なかったことがわかった(図2参照)。よって、反応的視線インタラクションが学習における注意の分配を助けたことが考えられる。

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図 2
学習課題に対する平均注視時間(average fixation duration)[ms]の条件間比較。
右が反応的エージェントと学習した群、左が非反応的エージェントと学習した群。
 

教育におけるICTの可能性を広げた本研究は、人間の学習と社会的ジェスチャーの関係の解明およびその活用方法の開発に役立つと期待される。今後は反応的やり取りのより有効な方法の研究を進めるとともに、幼児など低年齢層に対しても研究を進めていく予定である。


5.発表雑誌:

雑誌名:「Royal Society Open Science」1月14日
論文タイトル:Building a responsive teacher: how temporal contingency of gaze interaction influences word learning with virtual tutors
著者:Lee H, Kanakogi Y, Hiraki K.
DOI番号:http://dx.doi.org/10.1098/rsos.140361
アブストラクトURL:http://dx.doi.org/10.1098/rsos.140361

6.問い合わせ先:

東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系 教授 開一夫
E-mail: khiraki[at mark]idea.c.u-tokyo.ac.jp
Phone: 03-5454-6994
(上記のメールアドレスの[at mark]は@に置き換えてください。)
本研究は科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業Crestによって実施されたものである。

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