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最終更新日:2019.04.19

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トピックス 2015.04.09

【研究発表】アリ社会の"序列" 脳内のドーパミンが制御

1.発表者:

岡田泰和(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教)

2.発表のポイント:

◆沖縄産のトゲオオハリアリは、繁殖を担当する女王アリと子育てを担当する働きアリが一つの社会を形成
◆アリの脳内のドーパミン量の変化が巣内の序列関係とその序列関係に起因する繁殖や養育といった行動の変化をもたらすことを発見
◆本成果は、集団生活を営む多くの動物で生じる役割分担の発生メカニズムとその脊椎・無脊椎動物での類似性を提起

3.発表概要:

東京大学大学院総合文化研究科の岡田泰和助教らの研究チームは、アリの巣内で見られる女王アリと働きアリとの間に生じる序列関係と、その序列関係に起因するそれぞれの行動の違いが、脳内のドーパミン量の変化によって生じることを突き止めた。
沖縄産のトゲオオハリアリは巣の“構成員”が全て同じ大きさと形をしており、順位争いで勝ったアリが繁殖権を得て女王となる。一方、順位争いに負けたそれ以外のアリは働きアリとなり、姉妹である幼虫の養育にあたることで集団の拡大に貢献する、という順位性の社会システムを持っている。
研究チームは、順位争いに勝ったアリ(将来の女王アリ)と負けたアリ(将来の働きアリ)の脳内のドーパミン量を調べたところ、女王になるアリでは脳内のドーパミン量が上昇していることが明らかになった。また、働きアリに人為的にドーパミンを投与したところ、繁殖促進効果が見られた。このことからドーパミンはアリ集団において、序列関係とアリ社会の役割分担(繁殖/子育て)とをつなぐ生理物質であると示唆される。
ドーパミンなどのアミン系神経化学物質はマウス、サル、ヒトなどの集団生活を営む哺乳類においても情動や社会行動に深く関わっている。昆虫と哺乳類が類似した仕組みで集団の秩序を維持していることは、社会的な行動の進化のメカニズムが共通した歴史をたどってきた可能性を提起している。
なお、本研究は玉川大学、北海道大学、琉球大学と共同で行った。

4.発表内容:

集団で社会生活を営む動物において、個体間になんらかの優劣関係が生じてくることは、サル山やニワトリ小屋、そしてヒト社会を見れば想像に難くない。こうした動物集団における序列構造は、個と個、あるいは個と集団の利害の対立に端を発しており、あらゆる動物の集団は個と集団の利益を追求する中で妥協点をみつけながら社会生活を営んでいるといえる。

アリやミツバチの社会では産卵を独占する女王と、自身では繁殖をせず、女王の子供の養育に生涯を捧げる働きバチ・働きアリ(ワーカー)が共同で生活している。沖縄に産するトゲオオハリアリは、その大きさや形などの見た目から女王であることがわかるような多産な女王が存在せず、巣内の序列関係で女王が決まる。巣の構成員は形も大きさも同じメスのみであり、彼女たちが闘争の結果、序列を形成し、この争いに勝ったアリが女王、それ以下のアリはすべて不妊のワーカーの役割を果たす。これは繁殖する女王アリになるか、子の養育をする働きアリになるかという明瞭な行動の違いが、社会的序列によって引き起こされる特徴をもっている社会である。

トゲオオハリアリのメスの翅は膜翅ではない痕跡翅(注2)に変化しており飛ぶことができないかわりに、翅の有無が順位争いの指標になっている。この痕跡翅を持ち続ける個体だけが女王として産卵権を得る。翅を持つ女王は羽化メスの翅を大顎で噛み切ってしまうため、巣の中には翅を持つ女王は1匹のみである(福本ら1989)。いわば、女王アリが新入りを“シメる”ことによって羽化したメスが女王の座をおびやかす機会を奪っているわけである。この翅切り行動は繁殖をめぐる対立と解消を濃縮した、特殊化された順位行動であると考えられている(写真)。

一般にアリの巣内の序列関係は頻繁に変化し、順位構造を実験的に制御することも難しいため、これまで、順位と行動をつなぐ生物学的実体は多くが未解明のままであった。東京大学大学院総合文化研究科の岡田泰和助教らの研究チームは、メスのアリが翅を保持するか・切られるかが順位闘争の勝ち・負けの目印となるトゲオオハリアリの生態的特徴を活用し、アリの脳内の神経化学物質が順位形成の過程でどのような変遷をたどるのかを詳細に調べた。その結果、翅を保持するアリは翅を失ったアリよりも脳内のドーパミン濃度が高くなり、順位が決定した後7日で勝ったアリと負けたアリの間にドーパミン濃度に明瞭な差が見られるようになった。さらに、翅を切られた働きアリにドーパミンを人為的に投与することで卵巣の発達を人為的に誘導できたため、アリではドーパミンが繁殖を促進することが明らかになった。これらの事実は、ドーパミンが社会的順位によって生じる生理的な変化の主要なしくみを担っており、結果的に女王アリと働きアリの行動の違いをもたらしていることを示唆している。

女王アリへのチャレンジ権を持つ羽化したメスは翅の切除に必死に抵抗するが、女王アリが元気であれば抵抗むなしく翅を切られ、その後はおとなしく働きアリとして養育を担当する。アリの行動を詳しく観察していると、“シメられた”新入りのメスはしょんぼりとおとなしくなる。 こうした攻撃性の変化もドーパミンに制御されているかどうかは今後の研究課題であるが、社会環境によって柔軟に生き方を変える術はアリにも備わっている。

セロトニンやドーパミンのようなアミン系神経化学物質は脊椎動物から昆虫・エビ・カニ(節足動物)、タコ・貝(軟体動物)など広い分類群に共通する生理活性物質であり、さまざまな動物において情動や行動の発現閾値調節などを担う点で、機能的な類似性も高い。今後は、ドーパミンなどのアミン系神経化学物質がアリやハチで繁殖活性を持つようになった進化的・機能的経緯の解明や、単独性の種と集団性の種、昆虫と脊椎動物との比較生理学的研究から、動物の社会行動の進化メカニズムが解明されていくと期待される。

5.発表雑誌:

「Journal of Experimental Biology」4月号掲載予定
論文タイトル:Social dominance and reproductive differentiation mediated by the dopaminergic signaling in a queenless ant 

<Journal of Experimental Biology は英国の比較生理学誌(1923年刊行)>

著者:岡田泰和*、佐々木謙、宮崎智史、下地博之、辻和希、三浦徹
DOI: 10.1242/jeb.118414
アブストラクトURL:
http://jeb.biologists.org/content/early/2015/02/11/jeb.118414.abstract

6.問い合わせ先:

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教
岡田 泰和(おかだ やすかず)
Tel: 03-5454-6794 (嶋田・岡田研究室)
Email:cokayasu[at mark]mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
※表記のメールアドレスの[at mark]は@に置き換えて下さい。

7.用語解説:

(注1)順位・序列 (dominance hierarchy) : 集団生活をする動物の個体間に見られる優劣の関係。個体間で取りかわされる攻撃行動や威嚇行動、服従行動の方向性を多数の観察によって定量化することで観測者からみた順位が定義される。

(注2)膜翅ではない痕跡翅:トゲオオハリアリでは翅が飛翔能力を欠く痕跡翅に変化している.この痕跡翅はフェロモン分泌機能を獲得した特殊な器官であり,痕跡翅の有無が女王になるかワーカーになるかの運命を決めている.

8.添付資料:

以下の写真は、http://purpleandorange.jimdo.com(岡田泰和HP)よりダウンロードいただけます。

20150409topics_f01.png
写真:羽化したメス(中央)が、女王アリによって翅の噛み取りを受ける様子。

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