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最終更新日:2016.12.07

新任教員紹介

村上 克尚(ムラカミ カツナオ)

所属 専攻言語情報科学専攻
学科教養学科
部会国文・漢文学
職名 准教授
発令年月日 2019年4月 1日

 

略歴 ■最終学歴
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了〔博士号取得〕
■学位
PhD
■前任職
東京大学総合文化研究科 非常勤講師

 

担当科目 ■前期課程
初年次ゼミナール、ことばと文学Ⅲ
■後期課程
日本言語文化論
■大学院
言語態分析演習Ⅲ

 

研究活動 ■研究分野
日本文学
■研究業績
  1. 著書『動物の声、他者の声 日本戦後文学の倫理』新曜社、2017年(単著)
  2. 共著書『1Q84スタディーズBOOK(2)』若草書房、2010年(共著)
  3. 論文「狸の物言わぬ屍に応答するるために」『ユリイカ』2018年7月
  4. 論文「波及する戦争」『越境広場』2017年12月
  5. 論文「『沖縄』とともに生きるために」『アジア太平洋研究』2016年11月
  6. 論文「傍らに寄り添う動物 大江健三郎『万円元年のフットボール』論」『日本近代文学』2016年5月
  7. 論文「馬になる小説 小島信夫『別れる理由』における男性性からの逃走」『昭和文学研究』2016年3月
  8. misc「文学の暴力について」『新潮』2018年9月
  9. misc「大江健三郎と傷の主題」『文学界』2018年8月
  10. 講演「喪の作業から共生へ 津島佑子『真昼へ』におけるアイヌ自然観との共鳴」科研費セミナー「動物のまなざしのもとにおける文学」2019年1月12日一橋大学
■その他
第68回芸術選奨評論等部門文部科学大臣新人賞(2018)

 

採用理由

村上氏は当初、大江健三郎の初期の小説を中心に研究していた。その過程で、日本の戦後文学における〈動物〉表象という問題領域に突き当たったという。一般に考えられてきたところでは、、戦後の日本文学は、まだ記憶の生々しかった戦争体験を共通の土台として、戦争によって蹂躙された〈人間性〉や〈主体性〉の復権を目ざしながら出発したとされているが、村上氏によれば、戦後文学には〈動物〉または〈動物と見なされる人間〉――つまり、人間扱いされない存在――に焦点を当てたものがままあって、その背景には、〈人間性〉や〈主体性〉といった理念が弱者や少数派の排除・抑圧を正当化してしまうという逆説が横たわっているという。戦後文学はこの問題を必ずしも正面から取り上げて来なかったものの、意識的にか無意識にか、とにかくこの領域に踏み込んでいる作品は少なからず存在するともいう。


村上氏はこの〈動物〉表象を考察する際、現代の思想家たちの議論を参照している。J・M・クッツェー、ジョルジョ・アガンベン、ジャック・デリダらの思想がそれであり、彼らはほぼ共通して、〈人間〉と〈動物〉との境界は生物学的である以上に政治学的な境界であると看破し、そのうえで、〈人間〉の固有性なるものを再考すべきことを主張した。


村上氏は、こうした議論を、日本固有の歴史的脈絡にも留意しつつ、戦後文学研究に応用したといえる。戦後文学の担い手たちは、それぞれの戦争体験のどこかで、〈人間〉と〈動物〉の境界が崩壊する状況に直面してきた。優れた作家は、そこから〈人間性〉や〈主体性〉の回復に向かうという安易な道をあえて選ばず、〈人間〉とも〈動物〉ともつかない無規定な 他者といかに向き合うか、という倫理的な問いを自らに突きつけ、この問題を考え抜こうとした。〈人間性〉や〈主体性〉が自明の価値と見なされていた時代には、多くの読者はこの点を読み取ることができなかったし、作者でさえ十分自覚的だったとは言いがたいのだが、ポストモダンとも称される現代から振り返るとき、戦後日本文学が有していた豊かな可能性がこの問題領域においてこそ際やかに浮かび上がってくるのだ、と氏は強調する。


氏がこれまで取り扱ってきた作家は、武田泰淳、大江健三郎、小島信夫の三人である。文学史上の共通性は特に認められない作家たちだが、三人とも、〈人間〉と〈動物〉の区分が生み出す暴力と抑圧を作品に書き込み、「混血」や「変身」や「歓待」といった独自の手法でこの区分を揺るがそうとしていた。村上氏は、彼らの作品を分析し、従来の読みを根底から覆すような新説を次々に提出しつつ、一連の考察を博士論文「日本戦後文学における動物の表象について――武田泰淳・大江健三郎・小島信夫を対象に」にまとめ上げるとともに、これに手を加えた単著『動物の声、他者の声』を世に問うた。同書は刊行直後から関係各方面で注目の的となり、2018年3月に「平成29年度(第68回)芸術選奨評論等部門 文部科学大臣新人賞」を受賞した。


今後の研究計画については、〈人間性〉の美名が覆い隠してきた領域を掘り起こす方法にさらに磨きをかけて、いっそう広く深く近代文学の読み直しを進める一方、特に女性作家たちを積極的に取り上げて、暴力や抑圧や差別の問題をジェンダーの問題へと接続させていくつもりだという。研究者として優れているだけでなく、駒場における教養教育にとって最適任の人材と認め、本学准教授として採用を提案した次第である。

 

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