HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報529号(2010年5月 6日)

教養学部報

第529号 外部公開

〈本郷各学部案内〉 理学部で根源的な知的営みの系譜に加わろう

山形俊男

H-7-1-01.jpgまず理学部の歴史を振り返ってみましょう。明治十年に東京開成学校と東京医学校が合併し、東京大学 となりましたが、理学部はこの時に四学部(法、理、文、医)の一つとして発足しています。しかし、東京開成学校に改称される前の開成学校、その前身である 徳川幕府の開成所、さらにその前身の洋書調所、この基となった蕃書調所という風に歴史を遡ると、ついには幕府が貞享元年(一六八四年)に設けた「天文方」 にまで辿りつきます。つまり、理学部にはとても長い歴史があります。政治や社会の体制が変わろうとも、根源的な知的営みの系譜は脈々と繋がっているので す。これは私たちの誇りです。

最近の研究によれば、百三十七億年前に宇宙が誕生し、さまざまな過程を経て四十六億年前に地球が形成されました。その六億年後に原始海洋が形成され、そ こに原始生命が誕生し、この生命が地球そのものと相互作用を始めました。地球と生命が共進化を始めたのです。特に二十七億年前に光合成を行う生物が登場し て大気中に酸素が供給され、地球生物は急激な進化を開始しました。こうして哺乳類が生まれ、そして人類に進化したのです。人類は、自らがよって立つ自然環 境を理解しようと努め、宇宙における存在そのものをも問う生物として進化しました。人類は文字を持ち、文明を発展させ、そしていま、私たちが存在していま す。

H-7-1-02.jpgそう考えると、理学は人類の進化そのものを担っていると思うのです。産業革命以降、人類の活動は地球環境それ自体に影響を与えるほどに肥大しました。人 間圏が物質循環に影響を与えて、地球圏、生命圏と相互作用を始めたといえるでしょう。地球温暖化問題はその端的な例です。次々と人工物を産み出す人間圏は 地球圏、生命圏と新しい調和的な共進化を生み出すことができるのでしょうか、これは人類の未来への挑戦であり、理学の挑戦であるともいえるでしょう。私た ちは自然の仕組みと理を深く理解し、叡智を磨き、理学を展開する好機と捉えたいと思います。このような理学を東京大学において中心的に担う理学部は、いま すぐ役に立つことを目指す場ではありません。むしろ、新しい共進化を目指して、人類の新しい哲学を生む場といえるのではないかと思います。

H-7-1-03.jpg理学部には現在十の学科(数学科・情報科学科・物理学科・天文学科・地球惑星物理学科・地球惑星環境学科・化学科・生物化学科・生物情報学科・生物学 科)があります。理学の範疇に入るすべての分野を網羅しているといってよいでしょう。大学院は六つの専攻(物理学専攻・天文学専攻・地球惑星科学専攻・化 学専攻・生物化学専攻・生物科学専攻)に集約されています。ここで理学部で行われている研究テーマを列挙してみましょう。

ビッグバン、反物質、暗黒物質、宇宙の元素合成、第一原理に基づく電子状態の大規模計算、磁性流体、分子一個の挙動の可視化、十兆分の一秒の化学反応、 RNA反応、睡眠リズム、細胞運動を起こすモータータンパク質、雌雄性の進化、遺伝子と文化の共進化、恐竜絶滅と巨大隕石衝突、地球の全球凍結、地震発生 と波動伝播、大気海洋大循環、エルニーニョ、惑星気象、小惑星、太陽の振動、ポアンカレ予想、有限単純群モンスター、DNAナノテクノロジー、ペタコン ピューティングなどなど、枚挙にいとまがありません。実に多様な研究と教育が行われ、その過程で学生と教員、職員との間にさまざまな交流があります。

子供の頃、庭石をひっくり返した時に、小さな変わった生物をたくさん見つけ、全く違った空間がこんなにも身近なところにあることに驚いた記憶があります。それを知った時の喜びはとても新鮮でした。これと同じように、理学部には理解や発見の喜びが至るところにあります。

皆さんも理学部に進学して〈自然の仕組みと理を知る〉という根源的な知的営みの系譜に加わりませんか。

(理学部長/地球惑星物理学科)

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