HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報532号(2010年10月 6日)

教養学部報

第532号 外部公開

〈時に沿って〉 研究者が出来上がるまでの人生

岡澤厚

昨年八月に広域科学専攻相関基礎科学系・小島研究室の助教として着任しました。授業は基礎科学科の実験で、有機化学の内容を担当しています。

「時に沿って」という主題で話をするのですが、私が研究者になるまでの人生を語るくらいしか思い付きません。「こんなのでも研究者になれるのか」、と皆さんに自信を持ってもらえたらと、ありのままを書こうと思います。

小さな頃から作文が苦手でしたので、何を書いたら良いものか悩んでしまいます。これは、本に触れる機会が少なかったことが原因かもしれません。中学・高校と進むにつれ、今度は英語に不安を覚え、「英語を使わない人生を選んでやる」と自分に言い聞かせました。しかし当然、作文力も英語も研究者として必要な素質で、後悔先に立たずとはこのことです。

高校では、理系らしく数学は勿論のこと、物理と化学の両方に対して興味を持ちました。この頃から漠然と、研究者としての人生に憧れを持ったと思います。大学進学時には、理系科目全般が好きで一つには絞れず、どこかで「これからの時代は物理や化学といった範疇ではなく、学際的な分野の研究が発展するだろう」と聞き、これを鵜呑みにして物理と化学の両方を学べる大学を選びました。

大学では勉強にバイトに、バイトに……、と明け暮れました。バイト先も含め大学時代に知り合った友人は特に深い付き合いになりました。それは、出会った人たちとの価値観が、これまでよりも近かったからかもしれません。卒業研究配属先には、有機合成のできる研究室を選びました。しかし実際は、金属イオンを含む化合物の物性(特に磁性)を調べることで、無機化学や物理の研究もやっていると言えます。好きな有機化学の知識だけ付ければ良いのではなく、やりたい研究の周りにはたくさんの勉強すべき科目・分野がある事を実感しました。

大学院生になって初めて海外を経験しました。このときの国際学会で、ポスター発表に遅刻するという失態もしました。そんな中、偶然目の前にいた外国の先生に片言で必死に説明した結果、驚いたことにポスター講演賞を頂きました。安直に、「自分は研究者としてやっていけるのでは」と思いました。楽観主義な思考が、研究者として一番恵まれていることかも知れません。

博士一年の秋に大学近くで一人暮らしを始めてからは、終電を気にすることなく研究に没頭できました。一日のうち三分の二を研究室で活動したり、日曜に外出した帰りにも大学に立ち寄って測定を仕掛けたりしました。その甲斐もあって、それなりの成果が残せたと思います。もちろん指導頂いた先生方のご尽力もありました。こうして無事学位を取得でき、さらに半年後に念願の助教となりました。私事ですが、今年の一月には結婚もしました。恩師の先生曰く、「学位、就職、結婚を達成したので三冠」だそうです。

今は、豊かな自然環境と研究環境が併存するこのキャンパスで、教育と研究に携われる幸せを強く感じています。研究者として育てて下さった先生方のご恩に研究成果と教育で報いるためにも、常に自分を律する気持ちで励んでいきたいと思います。

(相関基礎科学系/相関自然)

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