HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報556号(2013年5月 1日)

教養学部報

第556号 外部公開

〈後期課程案内〉教養学科

渡邊日日

http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/fas/dhss/

教養学部教養学科とはどんなところなのでしょうか。簡単にイメージできるよう、例え話をしましょう。教養学科は、見た目は小さなカフェテリア式の食堂です。座席数は、そう、一学年で言えば百名ちょっとでしょうか。この食堂では様々な料理が供されます。鮨、蕎麦、ビーフ・シチュー、カレー、天ぷらなどなどです。こう書くと不安に思う方もいるかもしれません。よくある大食堂で、どの料理も味はたいしたことないのでは、と。それは全く違います。どれも一流のコックが調理し、提供するものであって、味は折り紙付きです。つまり、一見すると小さな食堂なのですが、背後には広大な調理場が控えている(学生数に対して専任教員の数が大きい)、そのような場です。

教養学科に入りますと、まずはコースに所属する形で自身の定食の主食が決まります。二〇一一年に改組された文系の教養学科では、まず、カフェテリア食堂が三つのエリアに分かれます。一つ目は超域文化科学分科で、古今東西、様々な時代の文化的現象を解明することを目的としたエリアです。このエリアはさらに、文化人類学、表象文化論、比較文学比較芸術、現代思想、学際日本文化論、学際言語科学、言語態・テクスト文化論という七つのコース(食堂の比喩を続ければブースとでもいいましょうか)に分かれ、各コースでそれぞれのディシプリンに従った専門的教育がなされます。

二つ目は地域文化研究分科です。このエリアは、イギリス研究、フランス研究、ドイツ研究、ロシア東欧研究、イタリア地中海研究、北アメリカ研究、ラテンアメリカ研究、アジア・日本研究、韓国朝鮮研究という九つのコースから成り立っていて、専門の対象地域を主食の枠としながらも、その中身は歴史・文学・社会など多様な要素で構成されています。なかには、当該言語で卒業論文の執筆が求められるところもあり、外国語学習を高度に進化させているという特徴も有するエリアです。

三つ目のエリアは、総合社会科学分科です。相関社会科学と国際関係論という二つのコースが含まれ、社会科学一般がカバーする広大な領域を対象としています。社会という概念の吟味から国際紛争の調停過程、あるいは通貨危機から社会思想史まで、というように、現代社会が抱える問題に対して、理論的にも実証的にも、さらに実践的にも取り組むところです。

教養学科がカフェテリア食堂と言えるのは、定食のカスタマイズ度の高さによります。主食はきちんと食べなければなりませんが、副食・総菜・デザートは自身の味覚(知的関心)によって一定程度決めることができます。それをサポートする体制が、サブメジャー・プログラムという制度です。たとえば主食を蕎麦にしているとしましょう。しかし同時に天ぷらにも強い関心を持っているとします。とすると、天ぷらをサブメジャー・プログラムに組み込むことで、それを(副食レベルではありますが)専門的に研究することが可能になります。食べ、食べながら作り方を学び、試作を繰り返していけば、卒業するときには美味しい天ぷら蕎麦を自ら作ることができるようになります。

教養学科はよくリベラル・アーツの学科と言われます。自由七学科とも言われ、昔々、文法学・修辞学・論理学・算術・幾何学・天文学・音楽を指していました。本来はキリスト教的価値観に基づいていて、それぞれにおいて、一見するとカオスに見える現象の解明を通して、神が創成した秩序(コスモス)を背後に観る営みを指していました。時代は変わりましたが、混迷を深める世界に対し複数の手法を用いて真摯に思考することの必要性は変わりません。色々なものをバランスよく食べることができるカフェテリア食堂は、観ようとする力を育むところです。

教養学科の特徴をもう一つだけ挙げておきましょう。食堂という意味は、出されたものを単に食べていればいいということではありません。演習・ゼミという調理実習が少人数で行われることが多いです。時には自ら食材を探し、買い付け、調理し、同級生や先生に振る舞わなければなりません。従来の調理法ではみんな満足しませんから、新たな調味料を考案しなければならないときもあるでしょう。小さな食堂であるため、学生が互いに知り合う機会が多いのですが、アイデアに行き詰まったら、多種多彩な周囲の人からヒントを受けることもあるでしょう。

食欲旺盛で、実験精神に富む学生を教養学科は求めています。「私は食が細いから」という不安は無用です。食べていけば胃袋自体が大きくなるからです。

(各コースの詳細についてはホームページをぜひ参照してください。)

(教養学科・学科長)

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