HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報560号

最終更新日:2018.07.09

教養学部報

第560号 外部公開

第21回身体運動科学シンポジウム スポーツ障害とバイオメカニクス最前線

星野太佑

560-K-4-1.jpg二〇一三年六月二九日(土)、大学院総合文化研究科 身体運動科学研究室主催の第二一回東京大学身体運動科学シンポジウムが駒場キャンパス21 KOMCEEレクチャーホールにて開催された。昨年度行われた二〇回目の記念シンポジウムのサブタイトルであった「これからの一〇年」における、その一年目を新たなメンバーを加えて、また一歩踏み出したシンポジウムであった。以下にその具体的な内容について記載する。

笹川俊助教より、「ヒト直立姿勢の冗長な多関節制御」と題し、ヒト直立姿勢の制御メカニズムについて発表があった。本研究より足関節とともに股関節も直立姿勢の制御に貢献していることが明らかとされた。また、その足関節および股関節における正味のトルクが各関節に生じさせる角加速度の変化は、お互い逆位相の関係にあり、そのことは、それぞれの関節における結果的な角加速度を大きく減少させることに貢献しているということであった。ヒト立位姿勢は多関節により協調的、冗長的に制御されていることが明らかにされた。

吉岡伸輔准教授より、「日常生活における筋パフォーマンス評価」についての発表があった。吉岡准教授は日常生活に必要な下肢の最小筋力を同定し、その最小筋力に比べて現在の筋力に余裕がどの程度あるかという「筋力余裕度」を調べる筋力余裕度計を開発した。具体的には、加速度・ジャイロセンサーを胸および大腿部につけて、しゃがみ込んだ姿勢から立ち上がる時の動作を計測し、そのデータを元に求められた力が最小筋力の何%であるのかモニターする機器である。今後は研究の発展だけでなく、臨床への応用が大いに期待される。

井村祥子助教より、「クラシックバレエの回転動作におけるバランス調整の方法について」と題し、ロシア人バレエダンサーを被験者とした研究について、その経過が報告された。できるだけ一点を見つめる顔のスポッティング動作は重心の移動と関連する可能性があるという。さらに支持足の左右方向への足圧中心の位置変化もバランス調節に関係しているという。このように、重心の位置と足圧を微妙に変化させることで、回転中のバランスを調整しているということであった。

飯野要一助教より、「ソフトボールのバッティングにおける腰の回転力学」についての発表があった。逆動力学を用いて日本一部リーグの選手を被験者としてボールを打つときの骨盤の動きの力学的解析を行った。骨盤に作用するトルクは、主として股関節トルクに直接的な作用によって生み出されていることがわかった。また、股関節の角度が股関節トルクの骨盤の回転を生み出す効果に影響し、重要であることが説明された。股関節トルクの成分の発揮タイミングを〇.〇一秒のオーダーで調整することで効果的に骨盤の回転を生み出している可能性を示唆したということであった。

今井一博准教授より、「スポーツ競技におけるスポーツ医科学支援」と題し、主にレスリングにおけるスポーツ医科学サポートを中心として、発表があった。実際には、医療的なサポートだけではなく、雑務や選手の精神的なケアなど、様々なサポートを行う必要があるということだった。そのような結果、選手と医科学スタッフとの距離が近くなり、選手のより良いパフォーマンスにつながるということであった。最後に、スポーツ医科学をスポーツ選手だけでなく、一般の人達に広める必要性も今後の課題として挙げられた。

福井尚志教授より「スポーツ障害の克服に向けて――靱帯損傷への挑戦」と題し、ウサギの内側側副靱帯損傷モデルを用いた靱帯の治癒促進実験の結果が示された。靱帯損傷後の修復組織が力学的に十分な強さに戻らないことから、成長因子であるFGF‐2やGDF‐5を靭帯断裂部に投与する実験を行ったところ、FGF‐2の効果は限定的であったのに対してGDF‐5の投与によって靱帯修復組織は力学的にも強くなるという結果が示された。しかしGDF‐5の投与を行っても修復組織の力学的強度は正常組織よりはるかに低いものであり、臨床的に実用化できるレベルにはないことも報告された。

深代千之教授より、「動きの本質を究明するバイオメカニクス」と題し、主に体幹の捻り動作時のバイオメカニクス的解明について研究発表があった。まず、体幹を上部と下部に分けた2セグメントによる研究を行った。その結果、捻りを大きくしたほうが、体幹結合部の仕事が増え、反動をつけると下部からのエネルギー伝播が大きくなることが客観的に示された。次に、体幹を三つのセグメントに分けて検討した歩行の研究結果が発表された。その結果、体幹の上部と下部が逆位相になる歩行では、腰の回転に抗する負の仕事が体幹の下部結合部で生じていることが明らかに示された。最後に、客観的なデータに基づくSciences(科学)の重要性と、そのSciencesの上に、個性や審美性が問われるArts(芸術)が成り立つという深代教授らしい言葉で締めくくられた。

以上のように、スポーツ科学の中でも今回はスポーツ障害とバイオメカニクスについての研究発表が行われた。数年前よりも明らかに来場者が増加したと実感される。社会におけるスポーツ科学の価値の向上や科学的知見の臨床への応用に寄与することを目指し、身体運動科学研究室の教職員、研究員、学生一丸となって、今後も研究活動に邁進していきたい。

(生命環境科学系/スポーツ・身体運動)
 

第560号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

教養学部報