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最終更新日:2017.02.02

教養学部報

第577号 外部公開

葉がなければ根で光合成?

小林康一

色から読み解く植物の多様性

本年度の文部科学大臣表彰若手科学者賞の受賞を機に本欄に執筆する機会をいただき、八月も終わりが近づいた頃にこの原稿を書いています。そろそろ、自宅のプランターで育てているメロンも収穫の時期なのですが、メロンの果実は外見上の変化がほとんどないので、最適なタイミングが分かりづらくて困ります。その点、トマトやバナナの実や皮は熟すと緑色から赤色や黄色に変わるので収穫時期が一目瞭然です。植物の緑色はクロロフィルに由来しますが、実が熟すにつれてそれが減少し、かわりに赤や黄色のカロテノイドが増えてくるためです。

クロロフィルもカロテノイドも、植物細胞内の色素体に蓄積します。色素体は藻類を含む植物に特有の細胞小器官で、高等植物では細胞の機能に応じて様々な役割を持つ形態へと分化します。例えば、葉の細胞ではクロロフィルを多量に含んだ葉緑体が発達しますが、大根などの根の細胞では無色の白色体が、トマトの果実やヒマワリの花弁の細胞などではカロテノイドを蓄積した有色体が見られます。また、ジャガイモの塊茎などの貯蔵組織の細胞ではデンプン粒をため込んだアミロプラストが発達します。これらの色素体は原色素体と呼ばれる未分化な色素体から分化するほか、発達過程や生育環境に応じて相互変換することも知られています。前述のトマトやバナナの例でいうと、果実の登熟の過程で葉緑体が有色体に分化することで色が変わるわけですが、発達の過程で色素体が変換するしくみは、実はまだよく分かっていません。

葉緑体が最も発達する器官は葉であり、その機能は光合成に特化しています。そのため、光合成器官と言えば葉で、それ以外のところは光合成をしないと考えがちです。しかし実際には、茎や枝、花弁や果実でも、緑色をしたところ(葉緑体が発達したところ)は光合成をするようで、草本の茎では葉と同様に、光合成による炭素固定が呼吸による消費を上回ります。木本の枝や果実では正味の炭素吸収はしませんが、呼吸により発生する二酸化炭素を再固定するのに役立っていると考えられています。中には、なぜこんなところが緑に、と思うものもあります。例えば、トマトの種のまわりのゼリー質にも緑色の部分があり、光合成を可視化する装置でみると、弱いながらも光合成活性を持っていることが分かります(図A)。ナスやキウイフルーツの果実も内側まで薄い緑色になっており、光合成の活性が見られます(図B、C)。また、一般に地中深くに伸びる根は緑にはなりませんが、着生ランの仲間は樹木や岩に根を張りつかせて生育するため、緑色の根を持つものが少なくありません。さらには、クモランなど、葉をまったくつけずに緑化した根のみで光合成を行う種も存在します。一方で、玉ねぎや大根の根は光を当てていてもほとんど緑化しないようです。

このように、緑になるかどうかは組織や種によって様々ですが、いったいどのようなしくみによって葉緑体の分化は調節されているのでしょうか。私はこの疑問を明らかにするために、葉緑体の分化が促進、または抑制される条件をモデル植物であるシロイヌナズナの根を用いて調べました。その結果、光合成器官である地上部を失うと根で葉緑体の分化が進むことが分かり、この制御に植物ホルモンのサイトカイニンとオーキシンが深く関与していることも明らかとなりました。通常、シロイヌナズナの根では、地上部から輸送されるオーキシンにより葉緑体分化が強く抑制されており、光合成の効率も葉と比べて非常に低くなっています。しかし、地上部を失った根ではオーキシンによる抑制が減少し、それと同時に傷害部におけるサイトカイニンシグナルが活性化され、緑化が促進されることが分かりました。このとき、根のクロロフィル量が増えるだけでなく、光合成の効率も良くなったことから、地上部を失ったことにより、根が光合成器官へと変化しているのだと考えられます。根における葉緑体分化には複数の転写因子(DNAに結合し遺伝子の転写を調節するタンパク質)が関わっており、そのような因子を人工的に過剰に作らせると、確かに根で葉緑体の分化が促進し、白い根が緑になることが確認できました。この効果は転写因子の種類によって違いがあり、ある転写因子はクロロフィルの合成に関わる遺伝子の発現を強く誘導する一方で、別の転写因子は光合成タンパク質の遺伝子発現を顕著に上昇させることが分かってきました。この遺伝子発現のバランスが光合成の効率に重要なようですが、それがどのように調整されているのかは、目下究明中の課題です。

それでは、地上部を失った際に起こる根の緑化という現象が、植物にとってどのような意義を持つのかを考えてみたいと思います。自然界では、植物は食害や生育環境の変動によって頼りの光合成器官を失ってしまうことが多々あります。そこで、地上部を失った根は葉緑体を発達させ、自らが光合成器官となることでこの危機を乗り越えようとしている可能性が考えられます。この考えは再生能力が高いタンポポの観察から一部裏付けられました。タンポポでは地上部を切除すると根から地上部が再形成されるのですが、その際に根の光合成を薬剤で阻害すると、地上部の再形成も阻害されたのです。このことから、根で行われる光合成が地上部の再形成に重要であることが分かります。

草むしりのときに、雑草は根から抜きましょう、と言われるのは、タンポポなどは根が残るとそこからしぶとく再生してくるからです。その際には、前述のような植物の危機応答のしくみが働いているのかもしれません。今後さらに研究を進めて、植物に共通な葉緑体の分化制御のしくみと、それに基づく植物の多様な生き方に迫っていきたいと考えています。

(生命環境科学系/生物)

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(A)ミニトマト、(B)ナス、(C)キウイフルーツの果実の光合成活性を可視化した。色が明るいところほど高い光合成活性を示す。

※編集注:
文部科学大臣表彰若手科学者賞とは?
萌芽的・独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者が、毎年90人程度表彰されている。本学の総合文化研究科(駒場)でも昨年度は3名、本年度は、小林康一先生と若本祐一先生のお二方が授与された。


 

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