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最終更新日:2017.06.23

教養学部報

第582号 外部公開

公開シンポジウム 「アメリカLGBT活動の現在:IVLP東京報告会」開催報告

坂口菊恵

開催の経緯

筆者はバックグラウンドが進化心理学・内分泌行動学だが、臨床心理学を専門としてセクシュアルマイノリティの支援に長年携わってきた教育学研究科の石丸径一郎先生の協力を得て、二〇一四年冬学期に「サステイナビリティ・オランダゼミ:セクシュアルマイノリティの社会参画」と題した全学自由研究ゼミナールを開講した。折しも経済系の週刊誌や新聞でLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーといった性的少数者の総称。より包摂的概念とするために、Q:クィア/クエスチョニング、I:インターセックス、A:アセクシュアル等、を加える場合もある)の活躍推進により期待される経済効果への注目が高まりつつあった。
二〇一五年Aセメスターには他のさまざまなダイバーシティ推進を目指す活動家を交えて、学術フロンティア講義「ダイバーシティデザイン講座:多様性社会を知る〜違いを認め合う社会づくり」の開講に発展した(学内広報no.1480「リベラル・アーツの風」に掲載)。その中でNPO法人「虹色ダイバーシティ」代表の村木真紀さんの提案を受け、アメリカ国務省が主催する二〇一五年の人物交流プログラムIVLP(International Visi­tor Leadership Pro­gram)で米国各地のLGBT人権活動を視察した成果の報告会を開催する運びとなった。

多彩なスピーカー陣と視点

今回IVLP参加者として講演した村木真紀さん、南和行さん(弁護士、なんもり法律事務所)、小嵒[こいわ]ローマさん(NPO法人 Rainbow Soup代表)、牧園祐也さん(Love Act Fukuoka代表)、石崎杏理さん(FRENS代表)は、ふだん大阪や福岡を拠点として活動を進めている。視察時期はアメリカ合衆国最高裁で同性婚を憲法上の権利として認める判決が出た直後であった。大都市や観光に力を入れている地域では潤沢な資金と長い歴史のもと「近未来」のような先進的な支援活動がなされている一方で、偏見や差別が強くLGBTにとってまだまだ住みにくい地方もあるという地域差を体感しつつツアーが進んだ。黒人公民権運動などを通して人権侵害と戦ってきた人々が、どのように蓄積された知見を性的マイノリティの問題に適用していっているのか、各々が普段行っている活動と専門性にひきつけて紹介された。

講演者の中でもLGBTQの若者の現状に関する石崎杏理さんの報告は、多くの来場者の心を打った。差別禁止法のある米国でも、いじめを苦にしたゲイやバイの男の子の自殺が問題になっており、生徒が教師による不適切な発言や対応に苦しむケースは、現在も見られる。また、ロサンゼルスだけで六〇〇〇人のホームレス状態の若者(一四─二四歳)がおり、そのうち四〇%がLGBTQであるという。生まれた家庭や里親の家庭で虐待を受けたり、拒絶されたりして居場所がなくなるのである。そして生き延びるために、数週間のうちにドラッグやセックス・ワークに囚われていく。彼らにシェルターや情報、社会復帰のための教育を提供することには重要な意義がある。

こうした状況は、日本での家庭に居場所がなく町に出てしまい性的搾取の対象になる女子中高生のありようと通じるものがある。また、日本には四六〇〇〇人の社会的擁護(保護者の不在や養育不能による)の子ども達がおり、うち七四%が施設で養育されている。かなりの数のLGBTQの子どもが含まれるはずだが、適切な対応がなされているのだろうか。

複数のスピーカーによって言及されたのは、はっきりとはLGBTとしての自己認識を持たないが、既存の性別規定に沿わない“Q”あるいは“Xジェンダー”の人が世界的に増えていること、自己表明の責任を当事者に負わせるのではなく、LGBTQの人々に対して「安心して受け入れられる場所だ」ということを表明するレインボーマークを周囲が示すことの必要性である。またLGBTの活動の中でも、心と身体の性が一致するLGBや、男性のプレゼンスが大きくなりがちな問題がある。意識的にトランスジェンダーの抱える困難に目を向けたり、活動グループの代表を引き受けてもらったりという取り組みが望まれる。

東京大学学生と教員の発表

シンポジウムでは、企業でのLGBTインクルージョンを推進する団体であるwork with Prideでインターンを務めた経済学部四年・諸星航洋さんによる「『性的マイノリティ当事者が職場に求める環境調査』調査結果報告」も行われ、フロアから活発な質疑があげられた。諸星さんの講演概要は二月八日付の東大ナビ特集記事「参加レポート:アメリカLGBT活動の現在IVLP東京報告会(2)」にまとめられている。発表のもととなった調査レポートも東大ナビのウェブサイトよりダウンロードすることができる。また、共同開催者の石丸径一郎講師により東京大学LGBTQ教職員会というサークルを設立したこと、これは大学上層部に積極的な取り組みを促すための第一歩であることが発表され、シンポジウムは盛況のうちに幕を閉じた。

(教養教育高度化機構/初年次教育部門)

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