HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報592号(2017年5月 2日)

教養学部報

第592号 外部公開

<後期課程学部案内>経済学部

学部長 持田信樹

世界を理解するためのプリズム
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/

経済学は現代社会を成り立たせる経済の仕組みや多くの人々が日々の糧を得る企業活動、さらに金融などを中心にして、経済・経営・金融に関連する幅広い分野を探求する学問です。更に経済社会が歴史の流れの中で展開していることを踏まえて、将来展望の基礎となる歴史研究も経済学の専門分野です。わが国の経済社会はいま巨大な変化の渦中にあります。昨年は英国のEU離脱やアメリカにおけるトランプ大統領の誕生という大きな出来事が起こりました。国内を見ても所得や富の不平等と少子高齢化、技術革新にもとづく産業構造や雇用の変化、そして金融・財政政策の長く苦しい調整過程などが続いています。

こうした激動期にあっては目の前の現象に惑わされず、本質を見抜く力が求められます。例えば保護貿易主義がつよまる中、経済学の果たす役割はますます大きくなるに違いありません。また資本主義の本質を解き明かす知的な営みや経済学の巨人とよばれる先人たちの思想に触れることはますます重要になりつつあります。また近年ではエビデンス(証拠)に基づく研究を重視する必要性も高まっています。データを駆使して経済社会現象を鋭く分析することは自らの判断にもとづいて先回りして変革を進めていくうえで不可欠です。このように経済学という学問領域は世界を眺めて経済活動を理解するためのプリズムであるといえるのです。

経済学部はこうした社会的要請や皆さんの夢や希望に応えられるだけの条件を十分に備えていると自負しています。経済学部には経済・経営・金融の三学科があります。けれども細分化された専門分野相互の垣根を低くして、幅広い勉強ができるようにカリキュラムが工夫されています。経済学部に進学すると数理的・統計的アプローチだけでなく、歴史的・思弁的なアプローチまで幅広い授業科目を履修できます。

実際、経済学部は文系学部でありながら理系的要素をもっています。十年前より進学選択では全科類枠を採用しており、文科二類以外の文科三類、理科一類、理科二類からの進学者が約四分の一を占めています。経済学部へはどの科類からも進学可能ですので、理系の皆さんも是非、進学を検討していただきたいと思います。
ゼミや少人数講義が充実しているのも経済学部の教育の特色です。そこでは一方通行の大教室の授業では味わえない教員による密接な指導を受けることができます。それに加えて平成二十七年度からは教員の監督およびティーチング・アシスタントの補助の下、論文検討会、企業の検討会、ディベート等を行い、レポートを提出することによって単位を認定するプロアクティブ・ラーニングセミナー(先回り学習)がはじまりました。

さらに近年、経済学部が力を入れているのは「卓越プログラム」です。国際社会で皆さん方が活躍するためには今後、修士の学位をもつことは必須となります。経済学部は大学院との相互乗り入れをこれまで以上に強化しています。すなわち学部時代より大学院との合併科目を計画的に履修すれば、一年間で修士課程を修了できる卓越プログラムを整備しました。平成二十九年度にはこのプログラムの一期生が誕生します。また長期の休業期間を設けて短期留学や、ターム単位の留学を可能とする四タームの新学事暦に移行しましたので、この機会を活用して海外の大学で武者修行していただきたいと思います。

最後に財政学・地方財政論の研究者として個人的な所感を少し述べさせていただきます。財政学は金融論と並んで現実の政策的課題にどう対処するかを考える実践的な学問領域です。こうした性格のためか霞が関の官僚と話をすると「赤門の財政学」ではないかと揶揄されることがあります。たしかに情報は役所がもっていて、政治的合意をうることに長けています。しかし、行政、政治は既得権益をそこなわないかたちでのリフォーム志向であるのに対して、大学の研究者は、長期的視点から、白紙の上に理想像を描くようなデザイン的発想をするという違いがあります。大学での勉強は社会に出て今すぐにも役立つような知識の寄せ集めではなく、卒業してから十年いや二十年経っても色褪せない人類の知的営為を学ぶ場だということを理解して頂きたいと思います。

東京大学経済学部はこれまで日本の経済学や経営学の研究・教育をリードし、国内外で活躍する人材を多く輩出してきました。来たる平成三十一年四月一日に東京大学経済学部は創立百周年を迎えます。創立以来、経済学部が社会に輩出してきた卒業生の累計は約三万四千人に達し、実業界、官界、学界など各界に数多くの有為な人材を供給してきました。百周年を機に、東京大学経済学部を日本、さらにアジア、世界における経済学の研究・教育の拠点として発展させ、日本社会経済の発展に対する貢献を継続したいと考えています。経済・経営・金融に関心のある人は是非進学先として経済学部を検討してください。

(経済学部長/財政学)

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