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最終更新日:2017.08.03

教養学部報

第594号 外部公開

<時に沿って>私の立ち位置

宮地隆廣

学生として十二年在籍した駒場に、文化人類学教室の教員として七年ぶりに戻ってきました。過去に黒板に向かって座っていたなじみの教室で、今では黒板を背にして授業をしています。当初は「自分の向いている方向が間違っているのではないか」と授業中によく思いましたが、最近ようやく慣れてきました。

専門はラテンアメリカ諸国を対象とする比較政治です。これまでに取り組んだ一番大きな研究はボリビアとエクアドルにおける社会運動に関するものです。具体的には、欧米諸国で発達した民主主義が二十世紀後半より定着していく過程で、労働者組織と先住民組織が取った政治行動を分析しました。労働者も先住民もともに、階級や文化の面で社会的には劣位に置かれた集団であるため、政治参加の可能性が広がる民主化を彼らは歓迎し、積極的に政治に関わることが期待されます。しかし、労働者組織の場合はプロレタリア独裁を唱える社会主義思想の影響があり、先住民組織の場合も歴史的に彼らを支配してきた入植者・経済的有力者である欧米系住民への反感が強いため、民主主義に否定的であることも考えられます。実際に調べると、彼らが持つ民主主義に対する理解は上記のような単純な仮説が全く通用せず、多様かつ変化に富むものでした。そして、その点を理解しなければ、彼らが率いる組織の動きも説明できないということが分かりました。

政治学を専攻する私が文化人類学教室に属することは全く予想していませんでしたが、振り返れば人類学は私にとって近い学問分野でした。まず、博士課程進学後に開発援助を受け手の視点から見直す研究チームに参加し、人類学的アプローチで開発を論じる方々と本を書いたことがあります。私自身もボリビアの農村に住み、援助で作られた貯水池をめぐる人々の生活について調べるフィールドワークを行いました。また、これまでの研究で集中的に扱ったアンデス諸国、とりわけボリビアでは専門分野の垣根が低く、政治の学術的議論に人類学者が積極的に参加します。そのため、彼らと話し、彼らの論文を読むことは特に珍しいことではありませんでした。これらの経験を通じ、同じ現象を扱っていても着眼点や議論の展開の仕方は専門分野で大きく異なり、それは分野特有の言葉遣いとして表れてくるのだということが分かったような気がします。

政治学と人類学の守備範囲について、その重なりやずれを完璧に把握しているわけではありませんが、人間を軸にして広がる関係を、その背後にある権力に意識を向けつつ取り組むという関心を共有していることは分かっています。一筋縄ではいかないラテンアメリカ諸国の政治現象を捉える上で、この二つの分野を学び続けることは大きな意味を持つと私は考えています。今後はより意識的に両方に目配せをしながら、教育と研究に携わっていきたいと思います。

(超域文化科学/スペイン語)

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