HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報602号(2018年7月 2日)

教養学部報

第602号 外部公開

<時に沿って>学部の頃の勉強

小池祐太

昨年の二月に「数理・情報教育研究センター」というセンターが東京大学に設置されたのですが、そちらに昨年十一月に着任しました。このセンターは東京大学内のいくつかの部局の連携を得て設置されており、私はそのうちの大学院数理科学研究科に所属しております。

私は、学部は東京工業大学数学科の出身なのですが、大学院からは東大数理でお世話になっておりました。大学院を出た後は統計数理研究所、首都大学東京と渡り歩いていたのですが、幸運なことに再び縁がありまして、東大に戻って参りました。

この文章を読む方の多くは教養学部生のはずなので、薄れつつある記憶を辿って私自身が学部生だった頃の話を書きたいと思います。私の現在の専門は統計学で、特に金融データへの応用をテーマとして研究しています。しかし、すでに述べました通り、私は学部時代を数学科で過ごしました。実のところ、私は大学ではとにかく数学を勉強したいと高校生の頃から考えており、東工大を受験したのもそれが(不純かもしれませんが)理由でした。つまり、少なくとも私の頃は、東工大では学部二年から数学科への所属が決まるというのと、二次試験では国語が出題されておりませんでしたので、その分数学を勉強する時間を多くとれるというのが、高校生の私にとっては魅力でした。さて、これをお読みの皆さんもすでに感じているかもしれませんが、高校と大学の数学はかなり毛色が違います。この違いを端的に表すのに、「大学では化学は物理となり、物理は数学となり、数学は哲学となる」と言うのを学生の頃に聞いたことがあります。このように、高校まで数学が好きだった人が、必ずしも大学数学を好きになるとは限りません。しかし、幸運にも(?)、私は大学の数学にどっぷりとはまり、特に基礎的なところ、例えば自然数をどう定義するかなどといった、おそらく実社会への応用には役に立たないであろうことを熱心に勉強していました(尤も、今の時代はありとあらゆる数学が実社会に応用されているので、私が知らないだけで応用があるのかもしれません)。この頃に勉強したことは、少なくとも陽には今の研究には役立ってはいませんが、一方で職業として数学を始めてしまうと、学部生の頃のように無目的で自分の興味のある数学を勉強するというのは、時間的にも気持ち的にもなかなか難しくなってしまいます。そのため、これをお読みになっている学部生の方は、数学に限らず自分の興味が向く分野を、将来役立つかどうかは度外視して勉強してもらいたいと思います。しかし一方で、学部生のうちから専門以外という意味での応用分野に目を通しておくのは、将来のためにもモチベーションを保つ上でも非常に良いことです。大学の講義は限られた時間内でその分野の必要最低限の知識がつくように設計されていますので、そのような意味でも講義には出席しておくと将来よかったと思えるかもしれません。

(数理科学研究科)

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