HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報611号(2019年7月 1日)

教養学部報

第611号 外部公開

<時に沿って> 研究者を志すきっかけ

松永 裕

二〇一九年四月に身体運動科学研究室の助教として着任を致しました松永 裕と申します。同研究室で八田秀雄先生の御指導の下二〇一六年三月に博士号を取得し、食品メーカーで三年間ポスドクとして経験を積んだ後、駒場に戻ってまいりました。研究では、スポーツ栄養学の観点からトレーニングによる骨格筋の適応を高める栄養素、特にタンパク質、その分解物であるペプチド、アミノ酸の摂取効果とそのメカニズムの解明を目指しています。授業では、大学院生への研究指導と、学部一、二年生の身体運動・健康科学実習で陸上、卓球、フィットネスの実技種目を担当しています。
教養学部報への寄稿という貴重な機会をいただきましたので、ここではなぜ私がこの分野に進むことになったのかについて書かせていただきたいと思います。私がスポーツ科学分野に興味を持ったのは高校生の時です。幼少期から水泳を続けてきましたが、残念ながら競技者として芽が出ることはなく、全中やインターハイといった全国大会をあと一歩のところで逃しました。その時に、ただがむしゃらに練習をしても限界があること、また科学的に正しくより効率的・効果的な練習をする必要があることを感じました。そして、どうしたら自分自身がもっと強くなれるのか知りたくて、スポーツ科学を学ぶために大学進学をしました。大学では、運動生理学を中心に運動時に身体に生じる変化について勉強し、これまでに行なってきたトレーニングの科学的に正しい部分、間違っていた部分を知ることができました。また部活動でトレーニングメニューを作成するようになり、学んだ理論を実践に活かし、自己ベストも更新することができました。自らが学んだことを試し、成功する楽しさを知った私は、その後スポーツ科学にさらにハマります。特に運動やトレーニングをする時に、骨格筋・細胞レベルでは実際にどのようなことが起きているのかもっと深く知りたくなり、大学院に進学をしました。大学院では、栄養素の摂取が骨格筋に対してどのように作用し、トレーニングの効果を高めるのかについて研究し、それが今の研究テーマのおおもとにもなっています。
このように、中学生・高校生の頃の悔しかった経験が、研究を行っていく原動力になっています。もしも当時高校生だった私がもっと早くスポーツ科学という学問に出会っていたら、仮定の話をしても意味がないですが、十数年前に全国大会出場を逃した高校生の夢は叶っていたかもしれません。当時の夢は叶いませんでしたが、今同じようにスポーツ競技力を高めたいと考えている方や、その選手の指導をされている方は沢山いると思います。その方々に対し、科学的に正しく効率的かつ効果的なトレーニング方法・栄養摂取方法などを提供できるよう、知見を増やしていくことがスポーツ科学の研究者としての私の使命かと思います。そして、日々更新される最新の知見をもとに、私自身もまだまだ強くなれるのではないかと思っています。
研究も教育も精進してまいりますので、皆様よろしくお願い申し上げます。

(生命環境科学/スポーツ・身体運動)

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