HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報615号(2020年1月 7日)

教養学部報

第615号 外部公開

送る言葉「韓国朝鮮語部会と生越直樹先生」

月脚達彦

教養学部前期課程、後期課程、大学院総合文化研究科には、韓国朝鮮語に関わる教育単位として、それぞれ韓国朝鮮語部会、韓国朝鮮研究コース、日韓言語エコロジー研究大講座がある。これらは生越先生の在職中に構築された。
文系のみを対象として韓国朝鮮語(当時は朝鮮語)が初修外国語科目となったのが一九九六年度。九七年に赴任された先生は、ただ一人の専任教員として教養学部の韓国朝鮮語教育の基礎を築かれた。二〇〇二年度に日韓言語エコロジー研究大講座が設置されたことにより、韓国朝鮮語の専任教員は〇三年度までに三人となり、初修外国語は理系にも開かれ、後期課程に韓国朝鮮地域文化研究コース(現韓国朝鮮研究コース)が設置された。この今日まで続く体制づくりに先生が奔走されたことは言うまでもない。〇九年度に韓国朝鮮語担当の外国人教員が採用され、一〇年度には中国語・朝鮮語部会から韓国朝鮮語部会が独立した。〇六年に駒場に赴任した私は、先生の敷かれたレールのうえに乗ったに過ぎなかった。
ところがこれからが大変だった。部会独立のころ先生は専攻長になられたが、何しろ少人数部会。先生は部会主任も兼任された。専攻長が終わると副研究科長に指名され、一年おいてまた副研究科長に選出。そのうえ私が総長補佐に任命されて部会主任を兼任、最年少の三ツ井さんは万年コース主任の道を歩み、今度は私が副研究科長に指名されるというてんやわんや。それでも副研究科長を終えて部会主任にもどられた先生のもと、夏季ソウル大学語学研修が実現、一八年度からはTLP韓国朝鮮語が発足、担当の特任教員も採用されて、今や韓国朝鮮語部会も五人体制となるまでレールは伸びた。
先生がお忙しくなるにつれて私の責任も増したが、困ったとき相談すると、最初は「ううーん」と唸られるけれども、決して慌てることなく問題解決へと導いてくださる。自ずとそうなったように解決する。あるとき「先生は楽天家ですね」というようなことを申し上げたら、「そうじゃなきゃやってられないでしょう」と仰った。
このところ日韓関係は最悪だと言われる。もっとも生越先生が大阪外大に進んで韓国朝鮮語を志す頃は、関係悪化も何も、人々の念頭に韓国などほとんどない時代である。そんな時代になぜ......などと野暮なことを伺ったことはないが、相当の決意を持って進んでこられたことは間違いない。隣国との関係が変転しても、大学の中でのお立場が変化しても、先生は揺らぐことなく飄々となすべき仕事をなされてきた。本当に楽天家なのかは分からない。とにかく先生は、二十三年間にわたって駒場の韓国朝鮮語教育の基礎を築き、ここまでレールを延伸させられた。その生越先生が定年退職される。韓国朝鮮語部会が隣国の人とのことばを通じた架け橋たりうるよう、これからも見守ってくださることをお願いしつつ、生越先生を送ることばとしたい。

(言語情報科学/韓国朝鮮語)

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