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最終更新日:2017.04.14

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トピックス 2015.03.17

【研究発表】ブルセラ属菌が、宿主細胞に小胞体ストレス応答を 惹起させ、細胞内増殖に必要な環境を獲得するメカニズムを解明

1.発表者:

田口 由起 (東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程3年)
今岡 浩一 (国立感染症研究所 獣医科学部 室長)
片岡 紀代 (国立感染症研究所 感染病理部 研究員)
宇田  晶彦  (国立感染症研究所 獣医科学部 主任研究官)
中津 大貴 (東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程3年)
堀井 咲耶 (東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程1年)
國重 莉奈 (東京大学 教養学部 統合自然科学科 学部生4年)
加納 ふみ (東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 助教)
村田 昌之 (東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 教授)

2.発表のポイント:

◆ 人獣共通感染症であるブルセラ症を引き起こす病原性細菌Brucella abortusが、宿主細胞(注1)の小胞体ストレス応答(注2)を利用して増殖する新しいメカニズムを明らかにしました。
◆ 細菌による小胞体ストレス応答を制御する宿主因子として膜タンパク質Yip1Aを同定しました。
◆ 本成果はブルセラ症の予防法•治療法の開発に寄与するだけでなく、同様の細胞内増殖メカニズムを有する他の細菌やウイルスの増殖制御への応用が期待されます。

3.発表概要:

ブルセラ属菌は、世界的にも重要な人獣共通感染症の一つであるブルセラ症の原因菌です。主に家畜(ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、イヌなど)を自然宿主とし、感染動物に流産をもたらします。ヒトは感染動物由来の乳肉製品の喫食、家畜の流産仔や悪露への接触、汚染エアロゾルの吸入などにより容易に感染します。症状は不明熱、全身倦怠感、疼痛、悪寒、発汗などですが、数週間~数カ月、数年に及ぶこともあります。合併症は、骨関節症状が最も多く、肺炎、胃腸症状、ブドウ膜炎、中枢神経障害、心内膜炎を示す時もあります。また、家畜ブルセラ菌は米国疾病管理予防センターによるバイオテロ関連病原体であり、畜産業への影響の大きさからアグリテロの病原体としても注意されています。しかしながら、ブルセラ属菌が感染細胞内で増殖能を獲得するメカニズムや関与する因子について、これまでほとんど明らかになっていませんでした。

今回、東京大学大学院総合文化研究科の村田昌之教授らのグループは、国立感染症研究所との共同研究により、ブルセラ属菌Brucella abortus (B. abortus)が感染細胞に小胞体ストレス応答を惹起させること、そして、それに付随して形成される小胞体膜由来の膜小胞を利用して菌の増殖可能な細胞内環境を創ることを見出しました。また、これらの過程に、メンブレントラフィック(注3)やオートファジー(注4)など、細胞内の膜動過程を制御する多くの宿主細胞タンパク質が関与していること、そして、必須の宿主因子として膜タンパク質Yip1Aを同定しました。

ブルセラ属菌の細胞内増殖メカニズムの解明は、ブルセラ症の有効な予防法や治療法の開発に大いに寄与すると考えられます。また、ブルセラ属菌と同様にその増殖過程に宿主の小胞体ストレス応答を利用する他の細菌やウイルスの予防への応用も期待されます。

4.発表内容:

研究の背景

細胞内に侵入して増殖する細菌やウイルスなどの病原体は、宿主の感染防御機構から逃れて生存するために様々な戦略をとります。ブルセラ属菌は、宿主細胞に侵入するとBrucella-containing vacuole(BCV)と呼ばれる小胞に包まれた形態で存在し、宿主のエンドサイトーシス経路(注5)を利用して細胞内をエンドソーム/リソソームまで移動します。その後、リソソームでの分解を回避して小胞体(注6)由来の膜を獲得することにより、その安全な細胞内環境(以下、ニッチ(niche)、注7)を自ら創り、その中で爆発的な増殖を開始します。しかしながら、ブルセラ属菌がそのような小胞体由来の膜に包まれた安全なニッチを獲得するメカニズムについては長い間不明のままでした。また、このニッチの獲得には、ER exit site(ERES)(注8)という細胞内の小胞輸送に関わる小胞体の一部構造体が必要であるとされていますが、ブルセラ属菌の増殖におけるその構造体の役割は全く分かっていませんでした。

研究内容

今回、村田昌之教授らの研究グループは、多くの細菌・ウイルスなどの感染時に宿主の小胞体ストレス応答が活性化されることに着目し、培養細胞(ヒト子宮頸癌由来のHeLa細胞)にブルセラ属菌の一種B. abortusを感染させ、感染後の小胞体ストレス応答を詳細に調べました。その結果、感染後の特定の時間に細胞の小胞体ストレス応答の代表的な指標の一つであるIRE1(注9)経路が活性化(IRE1のリン酸化)されることを突き止めました。さらに、IRE1経路の活性化に関与する宿主因子を見出すために、小胞体ストレスを誘導する薬剤(ツニカマイシン)でHeLa細胞を処理して小胞体ストレス依存的にIRE1に結合するタンパク質を探索したところ、膜タンパク質Yip1Aを同定しました。活性化されたIRE1(リン酸化IRE1)とYip1Aの細胞内局在について間接蛍光抗体法を用いて調べたところ、ブルセラ属菌の増殖に必須であると報告されているERESにそれら両タンパク質分子が濃縮されていることを発見しました。また、ERES構造内で、活性化IRE1は(Yip1Aと)大きな複合体を形成していることが生化学的手法で確認されました。逆に、RNA干渉法(注10)によりYip1Aの発現を抑制するとIRE1の活性化は起こらず、活性化IRE1の複合体は有意に減少しました。つまり、ブルセラ属菌感染時に生じるIRE1活性化の分子メカニズムとして、IRE1がERESでYip1Aの存在下で活性化された複合体を形成することを見出しました。

次に、HeLa細胞においてYip1Aの発現を抑制し、B. abortus感染による小胞体ストレス応答誘導への影響を調べました。その結果、Yip1Aの発現抑制細胞では、感染後に見られるIRE1の活性化は顕著に減少し、B. abortusの増殖は有意に阻害されました。さらに、B. abortusが感染した細胞を電子顕微鏡下で詳細に観察すると、対照となるHeLa細胞では、増殖するB. abortusの近傍に小胞体由来の多数の膜小胞が形成されていること、その小胞体由来の膜小胞がBCVに融合して菌の増殖に必須のニッチを創ること、そして、Yip1Aがこれらの過程における重要な因子であることが明らかになりました。興味深いことに、小胞体由来の膜小胞形成にはオートファジー関連タンパク質Atg9、WIPI1が必要であることも示されました。ERESはオートファゴソームの初期構造である隔離膜の形成の場とされていることから、B. abortusは小胞体由来の膜小胞形成に宿主のメンブレントラフィックに関わる膜ドメインやオートファジー機構を巧妙に利用している可能性が考えられます。以上の研究結果から、宿主の小胞体ストレス応答を利用したブルセラ属菌の新しい細胞内増殖モデルを提示することができました(図2)。

社会的意義

本研究により、これまで不明であったブルセラ属菌が感染宿主内で増殖能を獲得する重要な過程を分子論的に明らかにすることができました。本研究の成果は、ブルセラ症だけでなく宿主の小胞体ストレス応答を利用する他の細菌(結核菌など)やウイルス(インフルエンザウイルスなど)の予防薬の開発にも寄与することが期待されます。

5.発表雑誌: 

雑誌名:「PLoS Pathogens」(オンライン版:3月5日)
論文タイトル:Yip1A, a Novel Host Factor for the Activation of the IRE1 Pathway of the Unfolded Protein Response during Brucella Infection
著者:Yuki Taguchi, Koichi Imaoka, Michiyo Kataoka, Akihiko Uda, Daiki Nakatsu, Sakuya Horii-Okazaki, Rina Kunishige, Fumi Kano, and Masayuki Murata*
DOI番号:10.1371/journal.ppat.1004747

6.問い合わせ先: 

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授
村田 昌之(むらた まさゆき)
Tel:03-5465-7625   Fax:03-5454-6360
Email:mmurata[at mark]bio.c.u-tokyo.ac.jp
ホームページ:http://muratalab.c.u-tokyo.ac.jp/
※表記のメールアドレスの[at mark]は@に置き換えて下さい。

7.用語解説:

(注1)宿主細胞
細菌やウイルスなどが感染し、その中で増殖する細胞。

(注2)小胞体ストレス応答
異常タンパク質産生、低酸素、低グルコース、酸化ストレス、細菌・ウイルス感染などの内的・外的負荷により小胞体内に異常タンパク質が蓄積すると、小胞体ストレスと呼ばれる状態が細胞に生じます。これをストレスセンサータンパク質(IRE1、PERK、ATF6)が感知し、小胞体への負荷を軽減して細胞の恒常性の回復を図るために誘導する応答。

(注3)メンブレントラフィック
脂質二重膜からなる小胞を介して細胞内小器官の間および細胞内小器官と細胞膜の間を結ぶ物質輸送システム。

(注4)オートファジー
飢餓、不要タンパク質の蓄積、細菌やウイルスの侵入などにより誘導される、細胞が細胞質成分をオートファゴソームと呼ばれる膜構造体に包み込み、リソソームまで輸送して分解する仕組み。

(注5)エンドサイトーシス経路
細胞に外部から取り込まれた分子がエンドソームを経てリソソームまで運ばれる輸送経路。

(注6)小胞体
タンパク質の合成およびプロセシング、合成タンパク質の品質管理を担う細胞内小器官。

(注7)niche
生物が生存するために最適な場所。

(注8)ER exit sites
小胞体からゴルジ体への輸送小胞が形成される小胞体サブドメイン。

(注9)IRE1
小胞体ストレスを感知するセンサーの一つ。膜貫通型キナーゼであり、自己リン酸化により活性化します。活性化したIRE1は、そのRNA分解酵素活性により転写因子Xbp1をスプライシングし、小胞体ストレス応答を促進します。

(注10)RNA干渉
二本鎖RNAが相同な塩基配列を有するメッセンジャーRNAと対合して分解することを利用して任意の遺伝子の発現を抑制する手法。

8.添付資料:

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図1
(左)HeLa細胞内で増殖するB. abortus。増殖しているB. abortusは小胞体由来の膜コンパートメント内に存在する。B. abortusの近傍には多数の小胞体由来の膜小胞が認められる。
(右)RNA干渉法によりYip1Aの発現を抑制したHeLa細胞では、B. abortusの増殖は顕著に抑えられる。B. abortusは小胞体由来の膜を有さず、小胞体由来の膜小胞はほとんど見られない。
 

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図2
感染細胞内でB. abortusが小胞体由来の膜を獲得して増殖可能になる過程を示すモデル
(A)(a)感染した細胞内でエンドソーム/リソソームに到達したB. abortusは、独自の分泌系を利用してエフェクターを分泌することにより小胞体ストレスを誘導する。(b)IRE1はYip1Aの存在下でERESにおいて大きな複合体を形成し、自己リン酸化により活性化する。(c)活性化したIRE1は続いて小胞体由来の膜小胞の形成をもたらす。この膜小胞の形成にはオートファジー関連因子Atg9およびWIPI1が必要とされる。(d)小胞体由来の膜小胞はエンドソーム/リソソソーム小胞と融合する。B. abortusはエンドソーム/リソソーム内に存在するので、これらの小胞体由来の膜小胞と融合すると考えられる。(e)小胞体由来の膜を獲得したB. abortusは安全なニッチの中で増殖を開始する。
(B)RNA干渉法によりYip1Aの発現を抑制した細胞ではIRE1は活性化されず、従って、小胞体由来の膜小胞は形成されない。B. abortusはエンドソーム/リソソーム内に留まったままで増殖することができない。
 

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