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最終更新日:2024.03.26

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トピックス 2022.08.09

【研究成果】骨代謝に関わるPTH1受容体のシグナル伝達複合体を可視化 ――安全性の高い効果的な骨粗しょう症治療薬の合理的設計に貢献――

東京大学大学院理学系研究科
東京大学大学院総合文化研究科
東北大学大学院薬学研究科

発表者

小林 和弘(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 博士課程)
川上 耕季(東北大学大学院薬学研究科 助教)
草木迫 司(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 助教)
加藤 英明(東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻/附属先進科学研究機構 兼 同大学院理学系研究科 生物科学専攻 准教授)
井上 飛鳥(東北大学大学院薬学研究科 教授)
濡木 理(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 教授)


発表のポイント

  • クライオ電子顕微鏡を用いて、骨代謝において中心的な役割を果たす副甲状腺ホルモン1型受容体(PTH1受容体)について、作用の異なる2 つのホルモン分子(副甲状ホルモン(PTH)と副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP))が結合したシグナル伝達複合体構造を可視化しました。
  • PTHとPTHrPが異なる様式で受容体に結合することを見出し、生理的応答の違いを規定する構造基盤を明らかにしました。
  • PTH1受容体からPTHが脱離する過程の連続した構造変化を明らかにし、PTH1受容体の活性化サイクルを提唱しました。

発表概要

 骨はヒトにおいて必須の臓器の1つであり、骨格の維持や臓器の保護、血中カルシウム濃度の調節など多くの役割を担います。PTHおよびPTHrPは、骨の形成から維持までのあらゆる過程における最重なペプチドであり、その機能はPTH1受容体と、Gタンパク質三量体の1つである刺激性Gタンパク質(Gsタンパク質)三量体を活性化することにより発揮されます。PTHとPTHrPはともに骨形成を促進することから、骨粗しょう症の治療薬として着目されている一方で、これらのホルモンはPTH1受容体を介して過剰なシグナルを伝達し、骨破壊をも促進するという副作用が知られています。PTHとPTHrPでは副作用の程度が異なることから、これらのホルモンによる作用機序の違いを理解することにより、副作用の低減された薬剤の創出が期待されています。しかし、これらのホルモンによりPTH1受容体が活性化される構造的なメカニズムは不明であり、副作用を生み出すメカニズムは明らかになっていませんでした。

 今回、東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授らのグループは、クライオ電子顕微鏡による単粒子構造解析法によりPTHおよびPTHrPと結合したPTH1受容体とGsタンパク質三量体で構成されるシグナル伝達複合体の立体構造を解明しました。PTH結合型PTH1受容体とPTHrP結合型PTH1受容体の構造比較から、2つのホルモンはPTH1受容体とそれぞれ異なる相互作用を形成することが明らかになり、東北大学大学院薬学研究科の井上飛鳥教授との共同研究により、PTHとPTHrPがPTH1受容体を活性化する際に重要な相互作用を特定しました。加えて、2つのホルモンの相互作用の違いから、副作用を発現するメカニズムを明らかにしました。

 また、PTH結合型PTH1受容体とGsタンパク質複合体の試料からは計5種類の異なる状態の立体構造が得られ、計算機シミュレーション解析から、これらの構造状態はPTHが受容体から脱離する過程の構造変化を表していることを明らかにしました。

 この研究成果により、PTHとPTHrPによる生理的応答の違いを規定する構造基盤の理解が深まり、副作用の少ない骨粗しょう症治療薬の開発が促進されることが期待されます。

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図:PTH1受容体のシグナル伝達複合体の全体構造
PTH結合型PTH1受容体とGsタンパク質(左図)、PTHrP結合型PTH1受容体とGsタンパク質(右図)のシグナル伝達複合体の全体構造を表している。Gsタンパク質はGαs, Gβ1, Gγ2の三量体から構成されており、今回の研究ではGαsには熱安定型変異体であるmini Gαsを用いることで構造決定に成功した。また、シグナル伝達複合体の安定性を向上させるために、複合体構造を認識する抗体、Nb35を用いている。


発表雑誌

掲載誌:Molecular Cell
論文タイトル:Endogenous ligand recognition and structural transition of a human PTH receptor
著者:Kazuhiro Kobayashi(1), Kouki Kawakami(2), Tsukasa Kusakizako(1), Hirotake Miyauchi(1), Atsuhiro Tomita(1), Kan Kobayashi(1), Wataru Shihoya(1), Keitaro Yamashita(1, 3), Tomohiro Nishizawa(1, 4), Hideaki E. Kato(1, 5)*, Asuka Inoue(2)*, Osamu Nureki(1)*.
*共同責任著者 (1) 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 (2) 東北大学大学院薬学研究科分子細胞生物学分野 (3) MRC研究所 (4) 横浜市立大学大学院生命医科学研究科 (5) 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻
DOI:10.1016/j.molcel.2022.07.003


発表詳細

詳細は東京大学理学系研究科のページをご覧ください。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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