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最終更新日:2024.03.26

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トピックス 2023.06.27

【研究成果】異論を唱えるレビューが役立つ理由とは? ――同調圧力から解明する新たな発見――

※発表内容に誤りがありましたので内容を一部修正しました(2023年6月27日)

東京大学

発表のポイント

  • 従来の研究では、オンラインレビューにおいて、多数派の意見や平均的な評価から、商品選択に有用な情報を引き出すことが重視されてきましたが、本研究では、多数派の意見から離れた、異論を唱えるアウトライアーレビュー(outlier reviews)に注目しました。
  • 分析の結果、異論を唱えるアウトライアーレビューが、より中立的で簡潔かつ十分な情報を提供する傾向があり、多数派の意見をなすレビューよりも商品選択に有用な情報を提供することが明らかになりました。
  • 本研究は、オンラインレビューから有用な情報を引き出す新しいアプローチを提供するため、企業や消費者が大規模なオンラインレビューに対してこのアプローチを採用することで、より良い意思決定ができるようになると期待されます。
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アウトライアーレビューが有用になる仕組み(概念図)


発表概要 

 東京大学大学院総合文化研究科の植田一博教授と山口大学大学院創成科学研究科の楊鯤昊(ヤン・クンハオ)講師(研究当時:中央学院大学法学部)らによる研究グループは、大規模なオンラインレビューのデータセットを用いて、多数派の意見からずれた異論を唱えるアウトライアーレビュー(outlier reviews)が、多数派の意見をなすレビューよりも中立的で簡潔かつ十分な情報を提供するために、商品選択を行う際に有用性が高いことを明らかにしました。

 従来の集合知に関する研究では、異論を唱えるレビューは大きなバイアスをもつため、多数派の意見をなすレビューと比較して商品選択の判断に有用ではないとされてきましたが、本研究では異論を唱えるレビューが実際にはより有用なことが示されました。また、社会心理プロセスの一種である「同調圧力」(注1)に対する新しい考え方を提示しており、同調圧力がレビュワー(レビュー作成者)にポジティブな影響を与えていることを明らかにしました。すなわち、アウトライアーレビューのレビュワーは、同調圧力が存在するためにかえって自身のレビューの質を高めようとしていることが示唆されました。

 今後は、この研究成果を活用して、オンラインレビューサイト(例:Amazon.com)や企業が、中立性、簡潔性、十分性の点でより質の高い情報提供を行うことや、消費者側も異論を唱えるアウトライアーレビューに注目することで、より良い商品選択やサービス利用が可能になると期待されます。このように本研究の成果は、マーケティングや消費行動に大きな効果をもたらすと期待されます。

 本研究成果は、2023年6月27日(英国夏時間)に英国オンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。


発表内容

〈研究の背景〉
 大規模なオンラインレビューから商品選択に有用な情報を抽出することは、集合知の有効な活用のために重要な課題となっています。これまでの研究では、オンラインレビューの平均的な評価(例:平均の星の数)に注目して、商品選択に有用な情報を抽出するために様々な手法が提案されてきました。一方で、最近の研究では、オンラインレビューでは一般に、肯定的な評価が圧倒的に多いこと(図1)が指摘されています。この評価分布の偏りは、人々が他者の意見や行動に足並みを揃える社会心理プロセスである同調圧力の影響により形成されていると考えられます。そのため、偏った分布を基に計算した平均的な評価は、有用な情報を引き出す上で、参考にならないことも指摘されています。上記の背景を踏まえて、本研究では、平均的な評価から大きく離れて、異論を唱えるアウトライアーレビューに注目し、アウトライアーレビューから商品選択に有用な情報を抽出できるかどうかを検討しました。

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図1:レビューの偏った分布のため、平均的な評価は参考にならない

〈研究の内容〉
 本研究では、大規模なオンラインレビューデータセットを用いて、アウトライアーレビューの有用性を検討しました。具体的には、Amazon.comから1996年5月から2018年10月までの期間に投稿された、英語で書かれた商品レビュー1,000万件以上を収集し、このデータセットからアウトライアーレビューを特定しました(2023年6月27日修正)。その際に、ある商品に対するすべてのレビューの平均的な評価(平均星の数)を基準にし、平均値から大きく離れた評価を与えているレビューをアウトライアーレビューと定義しました。
 次に、Amazon.comで提供されている「Vote」機能を利用して、すべてのレビューの有用性を測定しました。「Vote」機能とは、Amazon.comにおいてユーザー(レビューの読者)がレビューを有用と思うかどうかを投票する機能です。本研究では、各レビューの「Vote」数を、レビューの有用性を測るための指標として使用しました。つまり、「Vote」数が多いレビューほど読者の購買決定に有用な情報を提供すると考えました。
 続いて回帰モデルを用いて、アウトライアーレビューの有用性を他のレビューの有用性と比較しました。その結果、他のレビューよりもアウトライアーレビューの有用性が高いことが明らかになりました(図2)。

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図2:レビューの評価が平均値からどの程度離れているか(横軸)とレビューの有用性(縦軸)の関係性
曲線の色は商品のカテゴリーが異なっていることを示す

 アウトライアーレビューが高い有用性を持つ理由を分析するために、研究グループはさらに自然言語処理技術を用いて、アウトライアーレビューが提供している情報の質を、「中立性」、「簡潔性」、「十分性」の三点(注2)から調べました。その結果、上記のすべての点において、アウトライアーレビューは情報の質が高い、すなわち、中立的で簡潔かつ十分な情報を提供していることが明らかになりました(図3)。次に、アウトライアーレビューが持っている中立的で簡潔かつ十分な情報と、これらのレビューの有用性との間の関連性を調べるため、シミュレーションによる分析を実施しました。その結果、中立的で簡潔かつ十分な情報を与えるという情報の質の高さがレビューの「Vote」数(すなわち、有用性)に大きく影響していることが判明しました。このことは、アウトライアーレビューのレビュワーが、同調圧力が存在するためにかえって自身のレビューの質を高めようとしていることを示唆しています。

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図3:レビューの評価が平均値からどの程度離れているか(横軸)とレビューが提供する情報のそれぞれの質(縦軸)の関係性
曲線の色は商品のカテゴリーが異なっていることを示す

〈今後の展望〉
 本研究は、オンラインレビューの有用性について新たな知見を提供し、オンラインプラットフォームがより効果的なクラウドソーシング環境を提供するためのヒントを提供していると考えられます。アウトライアーレビューに注目することで、消費者や企業がより正確かつ客観的な情報を得ることができるようになり、商品やサービスの購入や提供に関する意思決定が改善されると期待されます。

 今後は、本研究で得られた知見を、オンラインレビューシステムの改善や消費者行動の予測に活用することが期待されます。また、本研究は同調圧力がオンラインレビューに与える影響を明らかにしており、同調圧力が集団行動へ与える影響は従来研究で指摘されたものよりも複雑なことを示唆しています。すなわち、従来の研究では、社会的な偏見の形成や少数派意見の抑圧などに代表される、同調圧力のネガティブな影響のみが指摘されてきました。それに対して、本研究では、同調圧力がアウトライアーレビューの有用性と関連し、集団行動にポジティブな影響を与えることが示唆されました。今後は、同調圧力のもつ多面的な影響力に注目した研究が展開されると期待されます。

 最後に、本研究で使用した手法は比較的簡単であり、コストが低いため、今後の研究においても有用な情報を特定するための手法として使われることが期待されます。


発表者

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻
植田 一博(教授)

東北大学大学院情報科学研究科
藤崎 樹(特任研究員)〈研究当時:東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員〉

山口大学大学院創成科学研究科
楊 鯤昊(講師)〈研究当時:中央学院大学法学部 講師〉


論文情報

雑誌:Scientific Reports
題名:Social influence makes outlier opinions in online reviews offer more helpful information
著者:Kunhao Yang*, Itsuki Fujisaki, Kazuhiro Ueda*
DOI:10.1038/s41598-023-35953-4


研究助成

本研究は、JST CREST「文脈と解釈の同時推定に基づく相互理解コンピューテーションの実現(課題番号JPMJCR19A1)」の支援により実施されました。


用語説明

(注1) 同調圧力:少数意見を持つ人が自分の意見を表す際に、多数意見に合わせるよう暗黙のうちに誘導あるいは強制することです。

(注2) レビューの情報の質:本研究では、レビューの情報の質を、「そのレビューの表現の客観性」を示す「中立性」、「そのレビューが提供した情報の表現の簡潔性」を示す「簡潔性」、および「そのレビューが提供した情報量の多さ」を示す「十分性」に分けて測定しました。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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