HOME総合情報ニューストピックス

最終更新日:2017.11.17

ニュース

トピックス 2012.07.27

【研究発表】太田邦史教授(広域科学専攻)親から子への遺伝子継承で中心的な役割を果たす遺伝子を発見

発表者:太田邦史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授)
伊藤 将(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 大学院生)

◆どのような成果を出したのか 
親から子へ多様な遺伝子を伝える仕組みをコーディネートする遺伝子を発見

◆新規性(何が新しいのか)
減数分裂期のDNA組換え、染色体構造変化、DNA複製という異なる3つのプロセスを連係させて制御する因子(=「リエゾン因子」)の存在を世界ではじめて見出した点

◆社会的意義/将来の展望
減数分裂期のDNA組換え異常は、不妊症やダウン症などの疾患の原因の一つであり、将来これらの治療や診断に知見が生かされることが期待される

概要

同じ両親から生まれる兄弟姉妹でも個性は異なります。その原因の一つが、親から子に遺伝子が継承される際に、両親のDNAをつなぎ替え、新しい情報を持つDNAが生じるしくみ「遺伝的組換え(注1)」です。遺伝的組換えは、生殖細胞で行われる「減数分裂(注2)」の際に、DNAが切断され、つなぎ替えされる現象です。
DNAは「生命の設計図」ですから、その設計図を切り貼りする大変危険な過程を経て、我々は子孫を残しているのです。遺伝的組換えの異常はダウン症や不妊症などの疾患を引き起こします。したがって、この過程を正確に実行することが大切です。ところが、遺伝的組換えの過程は非常に複雑で、DNAコピーの複製が完了していることや、複雑な折りたたみ方の染色体構造(注3)が形成されることが必要です。このような複雑に入り組んだ生命反応を統合的に制御するしくみは、これまでよくわかっていませんでした。
今回、大学院総合文化研究科の太田邦史研究室の三好知一郎研究員と大学院生伊藤将らを中心としたグループは、分子生物学的な方法を用いて、減数分裂期の複雑な生命反応を連係させて遺伝的組換えを首尾良く開始させる「調整役遺伝子(リエゾン(注4)因子)」を発見しました。
本研究成果は将来的にダウン症や不妊症の治療や診断に役立つことが期待されます。なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究「非コードDNA」の助成を受けて行われました。

内容

  • 研究の背景・専攻研究にける問題点

両性の出会いにより子孫が生み出される有性生殖は、生物種の生存に大変重要です。有性生殖をする生物では、「減数分裂」という生殖細胞でのみ行われる細胞 分裂を経て、精子や卵が作り出されます。このステップでは、両親のDNAを切り貼りして、新しいDNAを生み出す「遺伝的組換え」が行われます。
生命の設計図であるDNAを切断してつなぎ替えることは、一か八かの危険な反応であり、これを行うに当たって、生殖細胞では非常に綿密な準備が行われま す。たとえば、DNAが複製された後に、折りたたまれて特殊な染色体構造を作ります。また、その染色体の特別な位置(ホットスポット)に、いろいろなタン パク質が呼び込まれ、最終的にDNA切断が導入され、組換えが開始されます。
これらの過程は非常に協調的に進行します。たとえばDNA切断はDNAが複製されたあとでしか生じません。また、ループ上の染色体部位でDNA切断が入る のですが、DNA切断に必要なタンパク質はループ部から離れた「軸」という部分に存在します。DNA切断の前にループ部分が折りたたまれて、軸の部分に くっつくことにより、DNA切断機構が活性化すると考えられています。しかし、これらの複雑な過程を協調的に制御する仕組みは謎のままでした。

  • 研究内容(具体的な手法など詳細)

太田邦史研究室では長年、遺伝的組換えの開始メカニズムを調べてきました。特にDNA切断機構がどのように活性化されるかを調べ、今回いくつかのDNA切 断因子がお互いに集合体を作り、染色体上で離れた位置にあるループを軸に近づけるはたらきをすることを突き止めました。また、そのうちの一つに関する遺伝 子が、ループを軸に接近させる調整役(リエゾン因子)のはたらきをしていることを明らかにしました。このリエゾン因子はDNA複製が終わったときだけ発現 します。つまり、DNA切断をするタイミングを見て染色体構造を変化させる調整因子だったことがわかり、従来の謎が一気に解けました。

  • 社会的意義・今後の予定など

減数分裂期の遺伝的組換えは生殖細胞の染色体分配に必須の役割を果たします。DNA切断因子の機能が失われて遺伝的組換えができなくなると、無精子症や卵 の異常で不妊になります。また、減数分裂の異常はダウン症などの染色体異常にも結びつきます。今回得られた知見から、不妊症やダウン症などの病気のメカニ ズムの解明が進み、治療や診断法の開発につながることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名:Molecular Cell(オンライン版7月26日)
論文タイトル:A central coupler for recombination initiation linking chromosome architecture to S-phase checkpoint

問い合わせ先 

東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 教授・太田邦史
URL: http://www.ohta-lab.c.u-tokyo.ac.jp/

用語解説

(注1)遺伝的組換え: 両親のDNAが子孫に継承される際に生じるDNA組換え。互いによく似たDNA配列を持つ両親由来の染色体の間で行われる。
(注2)減数分裂: 有性生殖を行う生物が持つ細胞分裂様式の一つ。精子や卵を作る際に、ゲノムDNAのセットを半分に減らすことが可能になる。多くの生物では、遺伝的組換えがうまくいかないと、減数分裂が正常に完了しない。
(注3)染色体構造: 酵母や人にいたる細胞核を持つ生物(真核生物)では、DNAがヒストンというタンパク質に結合し、階層的に折りたたまれた「染色体構造」を取っている。減数分裂時には特有の構造に変化する。
(注4)リエゾン: 「つなぐ」、「橋渡しする」という意味のフランス語(liaison)。

資料:

20120727oota.jpg

前のページへ戻る

総合情報