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最終更新日:2017.05.25

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トピックス 2015.04.20

【研究発表】光合成の源「葉緑体」が分裂する仕組みの一端を解明

1. 発表者:

岡崎 久美子(東京工業大学大学院生命理工学研究科 研究員)
(当時:東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 学術研究員)
和田 元(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授)
宮城島 進也(国立遺伝学研究所 教授)

2.発表のポイント:

◆植物の光合成を担う「葉緑体」の分裂は、脂質の一種によって制御されていることを発見しました。
◆脂質を介した葉緑体の分裂制御の仕組みを解明しました。 
◆植物の成長の基本的な仕組みの理解に貢献するとともに、葉緑体の数や大きさを人為的に制御することで、利用価値の高い作物品種の開発などにつながると期待されます。

3.発表概要:

葉緑体は、光合成などの重要な機能を担う植物の細胞内小器官です。葉緑体は植物細胞内で新しく作られることはなく、既存の葉緑体を分裂することでしか数を増やすことができません。これまで、葉緑体の分裂については複数のタンパク質が関与していることがわかっていましたが、葉緑体の主成分である脂質の役割はわかっていませんでした。また、葉緑体には、脂質の一種であるホスファチジルイノシトール 4-リン酸が存在することがわかっていましたが、その機能は全く知られていませんでした。
東京工業大学大学院生命理工学研究科の岡崎久美子研究員と東京大学大学院総合文化研究科の和田元教授、国立遺伝学研究所の宮城島進也教授の研究グループは、ホスファチジルイノシトール 4-リン酸が葉緑体の分裂を担うタンパク質複合体(葉緑体分裂装置、注1)の一部とだけ結合することを見出しました。
シロイヌナズナにおいてホスファチジルイノシトール 4-リン酸の量を人為的に減少させると、植物細胞一個当たりの葉緑体の数が増えることから、ホスファチジルイノシトール 4-リン酸は葉緑体の分裂を抑えるはたらきがあることが明らかになりました。葉緑体の分裂に異常がみられるシロイヌナズナを解析した結果、ホスファチジルイノシトール 4-リン酸は分裂装置を構成するタンパク質の1つであるPDV1と結合し、別の構成タンパク質であるDRP5BとPDV1との相互作用を変化させることで葉緑体の分裂を制御していることが示唆されました。
この成果は、植物の成長の基本的な仕組みの理解に貢献します。また、葉緑体の数や大きさを自在に変化させて、デンプン粒の大きさの異なる作物品種の開発などにつながる可能性が期待されます。

4.発表内容:

研究の背景

葉緑体は植物が持つ細胞内小器官で、光合成などを行い、植物を含めた地球上のすべての生命を支えています。葉緑体は、今から10~20億年前に、光合成を行う独立した生物であるシアノバクテリアが、植物の祖先細胞に取り込まれてできたと考えられています。そのため、植物細胞の一部となった今でも、植物が葉緑体をゼロから作り出すことはできず、葉緑体自身が分裂することによってのみ増えます。葉緑体の分裂は通常、中央が徐々にくびれ、2つにちぎれることで完了します。このくびれ部分には、数種類のタンパク質からなる葉緑体分裂装置が輪っか状に存在し、その直径をだんだん狭めて葉緑体膜をくびれさせることによって分裂が進行します(図1)。
細胞分裂に葉緑体の分裂がおいつかなければ、葉緑体を持たない細胞ができてしまいます。また、植物の成長や組織ごとの役割に合わせて葉緑体の大きさと数を最適化するために、葉緑体の分裂を調節することも重要です。岡崎研究員らは先行研究において、葉緑体分裂装置を構成する、互いによく似たタンパク質PDV1とPDV2の量が葉緑体の分裂の速度を調節していることを明らかにしました。一方で、葉緑体には、脂質の一種であるホスファチジルイノシトール 4-リン酸(PI4P)が存在することもわかっていました。しかし、PI4Pが葉緑体の分裂に関与しているか否かはおろか、その機能は全くわかっていませんでした。

研究内容

PI4Pが葉緑体分裂装置の構成タンパク質PDV1とPDV2のみと結合することがわかりました。PI4Pはホスホイノシタイド(注2)と呼ばれる脂質分子の一種で、動物・植物を問わず、細胞分裂、膜交通などさまざまな現象に関わる重要な物質です。PI4Pを合成する酵素の阻害剤を添加したり、PI4Pを合成する酵素の遺伝子の発現を抑えたりして、葉緑体に含まれるPI4Pの量を減らした状態でシロイヌナズナを育てると、細胞一個あたりの葉緑体数が増加し、葉緑体が小さくなりました(図1)。これはPI4Pが葉緑体の分裂を抑制するはたらきがあることを示しています。
PDV1タンパク質を持たないシロイヌナズナをPI4P合成酵素の阻害剤で処理した場合には葉緑体数はわずかしか増加しなかったのに対し、PDV2タンパク質を持たないシロイヌナズナをPI4P合成酵素の阻害剤で処理した場合では葉緑体の数がほぼ2倍に増えたことから、PI4Pによる葉緑体の分裂の制御は主にPDV1が担っていることがわかりました。また、葉緑体中のPI4Pが減少すると、PDV1やPDV2のように葉緑体分裂装置を構成するDRP5Bというタンパク質の量が増えました(図2)。DRP5Bは葉緑体のくびれを切るために必要な因子であり、PDV1やPDV2との相互作用によって葉緑体に運ばれてきます。PI4PはPDV1と結合することによって、PDV1とDRP5Bの相互作用を変化させ、葉緑体のDRP5B量を減少させることで葉緑体の分裂を抑制していることが示唆されました(図3)。

今後の期待

今回の研究結果により、葉緑体の分裂がPI4Pという脂質によって制御されていることが明らかとなりました。PI4Pやその仲間は細胞内の情報を伝達するシグナル分子として、植物の成長やストレス応答などさまざまな現象に関わっており、葉緑体の分裂がそれらの現象に関わる共通のシグナル分子によって調節されているのがわかりました。この成果は、植物の成長の基本的な仕組みを理解する上で重要です。
デンプン粒の大きさは、葉緑体の大きさに依存することが知られています。今回、PI4Pの量を人為的に変化させることで、葉緑体の数や大きさを変化させることができました。この成果を利用して、例えば、作物に含まれるデンプン粒の大きさを変えることにより、異なる食感をもった新しい作物品種の開発につながる可能性があります。

なお、本研究は日本学術振興会ならびに科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

5.発表雑誌: 

雑誌名:「The Plant Cell」3月号(4月13日発売号)掲載
論文タイトル:Phosphatidylinositol 4-phosphate negatively regulates chloroplast division in Arabidopsis
著者:Kumiko Okazaki*, Shin-ya Miyagishima, and Hajime Wada
DOI番号:DOI 10.1105/tpc.115.136234
アブストラクトURL:http://www.plantcell.org/cgi/content/short/tpc.115.136234?keytype=ref&ijkey=4Q0cLEXjWzzAFSB

6.問い合わせ先:

東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生体システム専攻
太田啓之研究室
研究員 岡崎 久美子
TEL:045-924-5527
FAX:045-924-5823
E-mail:okazaki.k.ac[at]m.titech.ac.jp
メールアドレスの[at]は@に置き換えてください。

7.用語解説: 

(注1)葉緑体分裂装置
分裂中の葉緑体のくびれの部分に見られる輪っか状のタンパク質の複合体。この輪っか状の構造が収縮することで、葉緑体が2つに分断される。葉緑体の2枚の膜の内側、中間、外側にまたがっている(図1)。

(注2)ホスホイノシタイド
ホスファチジルイノシトールという脂質のリン酸化によって合成される脂質の総称。イノシトール環の3、4、5位の水酸基がそれぞれ別の酵素によってリン酸化されることで合成される。リン酸化の数と位置の組み合わせで7種類のホスホイノシタイドが存在する。それぞれが異なった情報を伝える細胞内情報伝達物質としてはたらいている。

8.添付資料:

20150420topics.jpg
図1 葉緑体分裂装置の構造とPI4Pを合成する酵素の阻害剤を添加したときの葉緑体の様子
左:葉緑体は分裂面に輪っか状に存在する葉緑体分裂装置によって中央がくびれ、2つに分かれる。分裂装置は複数の種類のタンパク質からなり、それらのタンパク質の中で、PDV1とPDV2は外側の膜(外包膜)に、DRP5Bはさらにその外側に局在している。
右:種まきから4日後のシロイヌナズナを阻害剤のない条件(A)、PI4Pを合成する酵素の阻害剤を加えた条件(B, C)、PI4Pと同じホスホイノシタイドの仲間であり構造のよく似た物質であるPI3Pを合成する酵素の阻害剤を加えた条件(D)の培地にそれぞれ植え替え、さらに2週間育てたあと、葉を切り取りグルタールアルデヒドで固定し、細胞をばらばらにして顕微鏡で観察した。植物の細胞の中の葉緑体は無処理の場合(A)に比べ、PI4Pを合成する酵素の阻害剤で処理した場合(B、C)では細胞一個当たりの葉緑体の数が増える一方、大きさが小さくなっていた。PI3Pを合成する酵素の阻害剤で処理した場合(D)では、葉緑体の数や大きさは阻害剤を加えていない場合とほとんど変わらなかった。右下白色のスケールバーは10マイクロメートル。

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