HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報529号(2010年5月 6日)

教養学部報

第529号 外部公開

〈本郷各学部案内〉経済学とは

吉川洋

H-6-2-01.jpg皆さんは「経済」というものにどのようなイメージを持っているでしょうか。「経済至上主義」「市場 原理主義」などという言葉が使われる時には「経済」はマイナスのイメージを与えられています。誰もが大切だと考えている「環境」の問題が論じられる時にも 経済は敵役になることが多いようです。

しかし元来「経世済民」という言葉から生まれた「経済」が、今でも人々の暮らしの土台となっていることは明らかです。地球上には平均寿命が八〇歳を超え る日本のような国もありますが、その一方で四〇代に達しない国々もあります。平均寿命は様々な要因に依存していますが、一人当たりの所得水準が最も重要な 決定要因の一つであることはよく知られています。日々報じられる暗いニュースの背景に「経済的事情」があることも少なくありません。

より豊かで人間らしい生活を一人でも多くの人がおくれるようにしたい。こう考えることは当然ですが、一九世紀から二〇世紀初頭に活躍したイギリスの経済 学者アルフレッド・マーシャル(ケインズたちの先生)は、エコノミストが必要とするものとしてWarm Heart and Cool Headという有名な一句を残しました。その通り。熱いパッションだけでは世の中の問題は何も解決しない。暖かい心とともに冷静な経済学的思考が是非とも 必要なのです。

H-6-2-02.jpg今、世界は五〇年か一〇〇年に一回という厳しい金融危機にさらされています。日本経済も厳しい不況の中にあり、皆さんの周りでも大変な思いをしている人 が少なくないのではないでしょうか。一刻も早く不況を脱することが大切ですが、同時に、この不況の先にある日本の経済や社会はこれまでとは大きく違ったも のとなっていると考えておく必要があるでしょう。その未来の日本をより好ましいものにするために、より多くの人が経済学的な見方を身につけていなければな りません。

社会は経済だけで回っているわけではありません。しかし、すべての社会の動きに経済的現象が関わっていることも事実です。たとえば、医療・農業・教育な ど私たちの生活の基本となるような分野でも、オリンピックも、多くの人材と資金が投じられた活動が行われている限り、それは必ず経済的な活動という面を 持っているのです。もちろん、産業活動、貿易、消費、金融などは、経済活動そのものと言って良いと思います。経済学とは、これら社会の様々な側面を、一貫 した視点で見る目を育てるための学問と言ってよいでしょう。

昨年創立九〇年を迎えた経済学部で、皆さんはこの経済学を学ぶことになります。経済学は非常に間口の広い学問です。いろいろなアプローチがあり、専門課 程に入ればある程度は自分に合ったアプローチを重点的に学ぶことも可能です。数学的なモデルを駆使した理論、データの緻密な統計解析を利用した計量経済 学、現実の経済の動きや政策課題を掘り下げる政策論、歴史から経済を見る経済史、企業の戦略や構造を分析する経営学、金融工学など、多彩なカリキュラムが提供されます。

先にも述べたように経済問題は情熱だけでは解決できません。経済学は社会を読み解くためにどうしても必要な基本的な考え方です。そうした考え方を身につ けることで、内外の専門家と深い議論ができるようになり、世界で起きていることがより深く理解できるはずです。経済学部はWarm Heart and Cool Headを兼ね備えたよきエコノミストを育成したいと考えています。

(経済学部長)

第529号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報