HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報547号(2012年5月 2日)

教養学部報

第547号 外部公開

〈本郷各学部案内〉 農学部:農学への招待

古谷研

http://www.a.u-tokyo.ac.jp/

547-H-7-2.jpg生物の一員である私たちは、自然と切り離されると、その途端に生きていけなくなります。自然は生存に不可欠な酸素や水を供給し、食料を生産する場を提供し、私たちが出す老廃物を最終的に受け入れます。私たちは自然の恵みの中で生きているのです。農学は、このような視座に立つ「いのちの科学」です。生命の営みを探求し、その理解の基に、生物の優れた機能を利用して食料や環境、エネルギーなど人間の生存に関わる課題に取り組む科学です。

今、人口増加に伴う食料増産が世界的な要請になっています。増産するにはどうしたら良いでしょうか。森林を切り開き農地を拓く、あるいは化学肥料を使って生産力を高めることが考えられますが、増産を追求するあまり森林伐採や化学肥料の使用が過度になれば環境破壊につながります。食料の問題に限らず、環境やエネルギーなど農学が取り組む課題では、一方を追求すると他方が犠牲になる二律背反的な要素が常に伴います。このため、農学では専門分野に関する知識を身につけるばかりでなく、広く問題を捉えて総合的にものごとを見ていく必要があります。

農学部では、皆さんがこうした点を効率よく学ぶためのカリキュラムが用意されています。まず、進学が決まる二年生第四学期に、農学全体を俯瞰的に見渡す農学主題科目があります。この時期には農学に必要な共通性の高い基礎を習得する農学基礎科目も履修します。弥生キャンパスに進んでからは、専門を深める課程専門科目および専修専門科目があります。これらの階層的に構成された四グループの科目群により、四年生で行う卒業研究に取り組む準備ができます。

卒業研究では、農学部にある約百の研究室のいずれかに所属して研究の前線に立つことになります。これらの研究室では、生命科学や化学を基礎に、物理学、工学、生態学、環境学、情報科学、さらには農林水畜産業に関わる歴史、経済、政策等の人文社会科学系を含めた様々な分野の先端的な研究が進められています。農学部での教育研究の詳しい内容については上記のホームページをご覧下さい。幅広い分野をカバーする農学のなかに、皆さんの興味をかき立てるものが必ず見つかるはずです。

こうした総合科学としての農学の特徴は、昨年起こった原子力発電所事故による放射能汚染からの農林水産業の復興研究に見ることができます。現在、農学部では、各研究室がもつ専門性を背景にした協力により放射能の農畜水産物等への影響評価とその対策研究が進められています。新聞等の報道でご存じの方もおられると思います。

農学部の教育研究におけるもう一つの特徴は、フィールドワークです。教室で得た知識を野外実習により体得するために附属施設が設置されています。北海道から愛知県まで、我が国の気候帯に応じて設置された七カ所の演習林、農場から発展した生態調和農学機構、そして牧場、水産実験所などの附属施設において、自然と調和して私たちが生きていくための科学について深く学ぶことができます。実習で受けた強いインパクトによってフィールドワークを学内外での一生の仕事に選んだ学生諸君は少なくありません。

現在、地球規模で進行している環境変化によって、自然の恵みが劣化しつつあります。こうした状況において環境科学や社会科学など諸分野を融合させた新しいライフサイエンスである農学は国際的に先端的な役割を担っています。私たちの未来のために諸君の活躍を期待します。

(大学院農学生命科学研究科・副研究科長/水圏生物科学専攻)
 

第547号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報