HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報552号(2012年12月 5日)

教養学部報

第552号 外部公開

〈時に沿って〉現代数学最後の難問!?

權業善範

2012年4月1日付けで日本学術振興会特別研究員(PD)から数理科学研究科に助教として着任いたしました。權業と書いて「ごんぎょう」と読みます。かなり珍しい名字だと思っています。京都大学の物理学科の大学院生に同じ名字の人がいますが、あれは弟です。

学生・ポスドクとして数理棟に既に四年間通っており、今までは四階の院生室を使わせていただいていたのですが、今回五階に移ったので少し体力がついたような気がします。

若干、まだ学生気分が抜けていないのを自覚していますが、これから徐々に教員としても成長していきたいと思います。今回就職しまして、演習のクラスをもたせていただいてるのがとても新鮮です。今までろくにTAもやってこなかったものですから、試行錯誤の毎日です。

演習の問題の準備など、やり始めるとこれはこれで楽しくてすぐに終わってしまうのですが、無精な性格からかやり始めるのが遅く講義の日が近づくにつれ、ただただ焦っています。前期の演習では未熟さゆえに学生を含め多数の方々にご迷惑をおかけしたかもしれません。

さて、私の研究とは少し遠いのですが(とはいえ数学全体の中では近い部類に入るようです)、九月二〇日現在、世間は京都大学数理解析研究所の望月新一教授による“ABC予想の解決”の発表で賑わっております。私自身それを耳にしたのは九月の頭にドイツ出張中、数学者の間で噂になっているのを聞きました。先日ネットサーフィンをしていたら、ヤフーニュースにも取り上げられておりました。ワイルズがフェルマー予想を証明したときや、森先生がフィールズ賞を獲ったときは私はまだ数学に興味を持っていなかったので、数学のニュースがそのように取り上げられるのを初めて目にし、多少なりとも興奮しました。

さらに、先日、九大出張のために乗った飛行機の中で前のおじさまの新聞に“現代数学最後の難問ABC予想の解明!?”という見出しの記事を覗き見ました。マスコミの方がどういうつもりでこういう見出しをつけたのか、わかりません。しかしこういう風に“最後”と書かれるのだから、“数学ってまだやることあるのですか?”と質問されたりするのだなと思いました。一応ことわっておくと、数学には未だ未知な領域、未解決な問題が、腐る程あります。ABC予想が証明されたからといってやることがなくなるわけではないです。

望月先生はこの予想の解決のために四年以上も前から証明のための構想を立てて、理論を整備していったと聞きます。私も実はアバンダンス予想という高次元代数幾何学ではとても大きい問題に取り組んでいます。この問題は高次元代数多様体の分類理論において最も根本的であり、重要であると思われます。私にはこのABC予想の証明の真偽を判定することはできそうにないですが、大きい問題に取り組み解決を目指すというのはこういうことなのかと、人並みながらただただ感心しております。

(数理)

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