HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報556号(2013年5月 1日)

教養学部報

第556号 外部公開

〈理数系辞典案内〉数学

山本昌宏

辞典には「引くこと」と「読むこと」という2種類の使い方がある。必要に迫られて、ことばの意味を辞書を使ってピンポイントで調べるだけではなく、辞書を適当に開いて拾い読みをすると、思わぬことを見つけたりもする。ここでは「引く」だけではなく、「読む」ための「辞典」も挙げる。さらに、辞書だけではなく、事典、ハンドブックなどやや広い範囲から紹介するが、これらは多くの先人達が実に長い年月の間に蓄積した数学の知識をきわめて凝縮した形で記述したものである。初心者向けのものから、プロが一生使えるものまでを、筆者が知っている範囲で紹介するが、もちろん完全なリストを目指しているわけではない。ここであげなかった辞典などでも良いものは数多くある。インターネットや図書館で調べられるはずである。

①「岩波数学辞典(第4版)」(日本数学会、岩波書店、2007年、1976頁、15750円)数学の基礎から応用を含めて、専門的事項や最近の成果までを解説している。中項目主義をとっている。現行の第4版は第3版に較べると大幅に変わっており、特に応用分野の項目が増えた。両方の版を比べると最近の数学の変貌に気がつくかもしれない。なお、第2版の英語版もあり、世界的に定評がある。数学の研究者向けであるが、「読む」(あるいは、「読む」努力を払う)ことによって先端の数学の雰囲気に触れることができる。

②「現代数学百科」(矢野健太郎訳補、講談社、1968年、579頁、590円)ブルーバックス・シリーズであったが、今は入手しづらいが(古本屋などで入手できるかもしれない)、筆者は40年ほど手元において使っているので、個人的な好みもあるが、あえてここに挙げた。原書はドイツで出版されたもので大学初年次の程度までをカバーしている。初等的な範囲で公式集、数表も付いている。

③「数学辞典」(一松信、伊藤雄二監訳、朝倉書店、1993年、664頁、24150円)原書は1942年出版の英語によるものである。なお、巻末の数学用語の英語対照表にフランス語、ドイツ語、ロシア語とそれとスペイン語まであるのは他には見られない特徴である。

④「岩波 数学入門辞典」(青本和彦、上野健爾、加藤和也、神保道夫、砂田利一、高橋陽一郎、深谷賢治、俣野博、室田一雄編、岩波書店、2005年、738頁、6720円)大学の数学までをわかりやすく解説している。

⑤「カラー図解 数学事典」(浪川 幸彦・成木 勇夫・長岡 昇勇・林 芳樹訳共立出版、2012年、512頁、5775円)フルカラーの図と解説文をうまく連動させていることが魅力で、代数学,幾何学,解析学,応用数学の項目を解説している。原著はドイツの dtv-Atlasという事典のシリーズである。

⑥「現代数理科学事典 第2版」(広中平祐編集委員会代表、丸善、2009年、1470頁、46200円)いわゆる応用数学の事典(辞典でなく)で、読むのに適した事典である。

⑦「応用数学ハンドブック」(藤原毅夫、平尾公彦、久田俊明、広瀬啓吉編、丸善、2005年、784頁、25000円)偏微分方程式、数値解析などの理工系の大学の4年次までで学習する内容を解説している。ハンドブックなので読んで学習するのによい。

⑧「数学英和・和英辞典」(小松勇作編、共立出版、1979年、358頁、3000円)数学用語の英和・和英辞典である(用語自体の説明はなし)。講義などで使われている術語は英語でなんというのかなと疑問に感じたときに調べると面白いかも知れない。数学の多くの用語は明治期に英語などの翻訳で作られたのです。さらに研究論文は英語で書くのが普通なので、論文を書くときも役に立つ。

辞典の類ではないが、数学では公式集というものも重要である。

⑨「数学公式 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」(森口繁一、宇田川銈久、一松信著、岩波、1956年、各318、340、298頁、各2205円)微分積分、級数、特殊関数についての公式をカバーしている。入手しやすく、便利である。コンピュータが発達したからといってこのような公式集が不要になることはない。手元に是非置いておきたい。

⑩「新数学公式集Ⅰ 初等関数」(大槻義彦監修、室谷義昭訳、1991年、797頁、8240円)原著のロシア語の3巻本の公式集の一部の日本語訳で積分や級数の公式が7000余り収められている。原著の3巻本は公式集としては最大のものの1つ。

(番外)Handbook of Exact Solutions for Ordinary Differential Equations A.D. Polyanin V.F. Zaitsev 著、Chapman & Hall/CRC2003年 816頁 33810円)6200余りの種類の常微分方程式の厳密解を列挙している。このようなハンドブックは他にも色々ある。図書館などで眺めていると色々と面白い。

(数理)

 

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