HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報557号(2013年6月 5日)

教養学部報

第557号 外部公開

〈本郷各学部案内〉法学部進学予定の皆さんへ

増井良啓

http://www.j.u-tokyo.ac.jp/

557-H-1-3.jpg法を学ぶことは、どうして必要なのでしょうか。

人間社会にはしばしば利害対立が生じます。とりわけ、人がそれぞれに異なる価値観と思想信条を有していると、対立は抜き差しならないものになります。紛争の発生が避けられません。では、これをどう解決するか。

法による紛争解決は、争い方の手続を定めたフォーラムで、一定のルールにのっとって、言葉により決着をつけます。それは、暴力による紛争解決とは異なり、秩序あるたたかいです。腕力に訴えるのではなく、正しいルールに訴えるという平和的な解決です。事前にルールを定立しておくことで、紛争の激化を未然に防止することにもつながります。

こうして、人々がひとつの社会で平和に共存していくには、法による紛争解決が必要です。そして、法を動かすためには、紛争の背後にある問題点を的確に発見したり、既存のルールを精密に読み解いてこれを解釈したり、望ましいルールを構想して立法したりすることが不可欠です。このような能力――法を運用する能力――は、一定の厳格な知的訓練を経てはじめて、身につけることができます。法学部の講義や演習の密度の濃さには定評がありますが、それは、こういった事情によります。

市場経済が高度に発達するとともに、法を運用し改善する能力を有する人材の社会的需要は、日本に限らず、ますます大きくなっています。皆さんが駒場で学んでいる現在においても、また、皆さんが大学を卒業して活躍する将来においても、皆さんにとっての真の相手は世界規模に展開しています。それは、シンガポールの官僚であるかもしれませんし、ブラジルの環境保護活動家であるかもしれません。ウォール・ストリートのバンカーであるかもしれませんし、マリで国境なき医師団の活動を支える後方支援者であるかもしれません。どの活動にも法的側面からの検討が不可欠です。このような人たちと互角にわたりあい、あるときは協力し、あるときは競争する中で、共通の問題を発見し解決していくことが課題になります。

このような課題に立ち向かうためには、既存のルールを知悉し、それを限界点まで運用する努力が大切です。その上で、従来の制度や枠組みでは何がいけないのかを具体的に把握し、どこをどう変えれば問題が解決に向かうのかを、徹底的に考え抜き、社会的合意を形成する必要があります。鋭い問題意識とバランスのとれた判断力を自覚的に育てていかねばなりません。

法学部では、皆さんのひとりひとりが右に述べたような能力を身につけることができるよう、多彩なメニューを用意しています。私たちのつくった法がどうなっていて、どう改善すべきかを検討するのが、「実定法」科目です。また、法の歴史と実態を学び、外国法との比較を行い、哲学的背景を知るために、「基礎法」科目を提供しています。さらに、法と政治は密接不可分の関係にありますので、種々の政治現象を理論的に深く学ぶ「政治」科目を、多数展開しています。経済学の基礎を学ぶ科目も用意しています。履修科目の選択には柔軟性があり、必修科目の違いにより三つの「類」がありますから、自分の関心と将来設計に応じていずれかの「類」を選んだ上で、幅広く科目を履修するのがよいでしょう。

法学部で学ぶ経験が、皆さんの飛躍につながることを期待します。

(租税法)

第557号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報