HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報557号(2013年6月 5日)

教養学部報

第557号 外部公開

〈本郷各学部案内〉工学部 進化し続ける工学

小関敏彦

http://www.t.u-tokyo.ac.jp/

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MITの学生とともに講義を聴講
工学部/工学系研究科の研究はきわめて広い範囲に及んでいます。例えば、より快適で安全な建築物や都市、新しい情報処理や通信のためのデバイスやシステム、持続可能なエネルギーや資源の生産や循環、次世代の移動体や生産システム、高度医療や再生医療を可能にする分析技術やデバイス、などをはじめ、ここでは書ききれないほど多岐に渡ります。加えてその基盤となる物理や化学、物質や材料の基礎研究も広範に進められています。このような工学の研究の広がりは、近年、理学や医学、社会科学などとの関わりを一層強め、研究領域的にはボーダーレス化しながら、急速に進んできました。

例えば、医学や医療の分野に工学で培ってきた技術や知恵を応用して、新しい診断法や治療法、再生医療につなげる研究を医学部と連携して活発に進めていますが、これもその典型的な例です。他方、非常に巨大で複雑な技術社会の中で万一の事故や災害による被害を最小に抑えて短期間に復元するための工学、「レジリアンス工学」が、東日本大震災後、重要な領域として新たに生まれてきました。このように工学の研究は、公共の福祉や健康、安全を実現するために様々な分野と連携し、また時の要請に応じて新たな領域を生み出しながら進化しているのです。それと同時に、研究の対象や進め方も地球規模のものが増えてきました。

温暖化対策や資源、エネルギーの研究などは言うまでもありませんが、多くの研究分野で、今や地球のどこかで開発された技術が瞬時に世界中に広がる時代ですので、世界の様々な方式や条件を考慮し、また世界の様々な大学や研究機関と情報交換や連携しながら研究を進める時代になっています。工学の研究は地理的にもボーダーレス化しているのです。

それとともに工学部/工学系研究科の教育のあり方も進化しています。研究の広がりや領域的なボーダーレス化の中でも、工学の基礎を堅持し、工学を学ぶ学生諸君の基礎づくりをしっかり行うことが重要であり、そのために工学部ではコアとなる部分について「工学教程」と題する教科書シリーズの編纂を進めています。

その一方で、カバーすべき領域の広がりや変化へ対応して、各学科/専攻ごとにカリキュラムを整備し、学部/研究科全体でも横断的な講義や国際化へ向けた英語講義を含む様々な講義を開講するとともに、海外との交流機会の一層の拡充も進めています。例えば、昨年、私の所属するマテリアル工学科の学部四年生二〇人が、工学部の支援を受けて、米国のマサチューセッツ工科大学とカリフォルニア大学バークレー校を訪れ、現地の学生とともに講義を聴講し活発な交流をして大変刺激を受けて帰ってきました(写真)。こういった多面的な教育の機会と仕組みを通して、工学部はしっかりした基礎と広い視野を持つ国際的な人材を育てようとしています。さらに、工学が進化、グローバル化する中で、これからの教育や人材育成をどうするかについては、工学部の中だけでなく、世界の工学のトップクラス五大学の工学部長によるDeans Forum を開催してそこでも議論を続けています。

工学は、時代の流れに即応し、そして時代の流れを先取りして、研究、教育、人材の育成、いずれの面でもどんどん進化しているのです。

(マテリアル工学)

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