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最終更新日:2021.02.03

教養学部報

第561号 外部公開

1964年東京五輪と駒場キャンパス

八田秀雄

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2020年東京五輪開催が決定した日に、
国立競技場聖火台に灯された火
1964年10月10日、当時五歳だった筆者は東京都の一番南である大田区の家から見えた、北の空に小さく浮かぶ五輪のマークを今でも鮮明に覚えています。東京五輪開会式で国立競技場上空に編隊飛行によって描かれた五つの輪が、まだ高いビルの少ない時代なので大田区からでも見えたのでした。

2020年に再び東京五輪が開催されることになりましたが、前回1964年の東京五輪には実は駒場キャンパスもかなり貢献しています。前回の選手村は、アメリカのワシントンハイツとして住居があった跡地、現在の代々木公園でした。今でもその時のオランダ選手宿舎一棟が残されています。選手村から近い駒場キャンパスは陸上競技の練習会場となりました。陸上トラックである現在の第一グラウンドがトラックと跳躍種目の練習会場となっただけでなく、現ラグビー場がやり投げ、野球場が円盤投げ、第二グラウンドがハンマー投げの練習会場となり、駒場のグラウンドが全面的に陸上競技の練習に使われました。

またトレーニング体育館はこの年の6月にできた当時としては画期的なウェイトトレーニング施設で、これも選手のトレーニングに使われました。ウェイトトレーニングはまだまだ一般には知られていない時代ですが、五輪レベルの選手では当然のこととして行われ始めた頃と考えられます。

陸上部OBの記憶によれば、円盤投げで五輪四連覇することになるアメリカのオーター選手や、女子800mで金メダルのイギリスのパッカー選手、女子砲丸投げ円盤投げで金メダルのソ連のプレス選手など、多くの選手が駒場で練習したということです。トレーニング体育館のあるあたりはそれ以前は蛇のいる藪で、グラウンドも凸凹で石だらけだったのが五輪で整備されたことを、五輪直前の教養学部報に当時の加藤橘夫先生が書かれています。

また当時の青木事務部長も、五輪をきっかけに駒場の森をつくろう! と同じ学部報で駒場環境の整備をうったえています。そして東京五輪後に、今も野球場にある駒場の名物といってよいしだれ桜の木が、東京都から贈呈されたということです。このように駒場キャンパスは、東京五輪の練習会場として使われたことでかなり整備され、今でもその跡が多く残っています。

次に陸上競技の観点から、前回の東京五輪の特徴的なことをいくつかあげると、この時の国立競技場はアンツーカーと呼ばれるレンガなどを砕いた土でした。男子100mはアメリカのボブヘイズ選手が圧勝しましたが、その記録は公式には10秒0です。ただし実際には電気計時もされていて10秒06だったということです。反発の悪い土のトラックで、しかも凸凹1レーンでこの記録で走ったことは驚きです。

また現在では女性がマラソンをすることも当たり前ですが、東京五輪の女子のトラック競技は八〇〇mが最長距離でした。すなわち女子の長距離走はまったく行われていません。ようやく1984年のロサンゼルス大会からは、マラソンまで女子も行われるようになり、今では50km競歩を除くと投擲も含めて男女同種目数が行われています。マラソンは国立競技場から今の味の素スタジアム近くまで甲州街道を往復するコースで、エチオピアのアベベ選手が2時間12分11秒二の当時の世界最高記録で、二位に四分の差をつける圧勝でした。五輪のマラソンで世界記録を出した選手はこれ以降いません。今は五輪は夏に行われることが多く、暑さで今後もなかなか世界記録は出そうにありません。2020年東京大会は真夏の開催で特に酷暑が予想されます。

私自身の思い出というと、家の近所を新幹線が走るようになったのは強い印象があります。またテレビは家にありましたがほとんど白黒でした。開会式で日本選手団の着た赤いブレザーを、テレビで見る多くの人は色を想像するしかありませんでした。市川崑監督の映画「東京オリンピック」が大ヒットしたのは、白黒でしか見られなかった映像をカラーで見たかったという多くの人の願いも関係しているように思います。さらに初めて移動カメラが入ってマラソンがテレビ中継されました。マラソンをテレビの生放送で見るというのが驚きだったことも覚えています。ただし移動カメラは一台だったので、結局後半は独走したアベベ選手ばかりが映っている映像になりました。

このように前回の東京五輪は駒場キャンパス、また東京に住んでいた子供である私に大きな影響を与えました。北の空に浮かぶ五輪は本当に鮮烈な思い出です。2020年も素晴らしい大会になってほしいものです。実は前回2016年東京五輪招致活動では、駒場の第一グラウンドがやはり陸上競技の練習会場になる案になっていました。しかし2020年案では、今のところ駒場キャンパスは練習会場には入っていません。ただし選手村から半径8kmの円内に収まる駒場キャンパスが、再び何らかの形で東京五輪に貢献してほしいと思っています。

(生命環境科学系/スポーツ・身体運動)

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