HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報564号(2014年4月 2日)

教養学部報

第564号 外部公開

大学の歴史の紡ぎ手に

濱田純一

564-A-1-1.jpg東京大学への入学、おめでとうございます。世界トップ水準の学術を担っているこの大学で、皆さんがこれまで培ってきた知的な世界をさらに広げ、深めていただきたいと思います。そして、その知的な力を基盤にして、皆さんの人生を豊かなものとし、かつ、数多くの難しい課題に直面している社会の未来に大きな貢献が出来る人間として成長していただきたいと願っています。自分を成長させようと、あるいは社会の役に立とうと、一生懸命励んでいく皆さんを支えるべく、教職員は労を惜しまないつもりです。

東京大学は、明治10年(1877年)の創設以来、日本の学術を先頭に立って牽引するとともに、世界の学術の発展にも大きく寄与してきた、誇りある歴史を有しています。また、高い研究水準を背景に、卓越した能力を身につけた数多の人材を広範な分野に送り出してきました。今日、東京大学が社会的に高い評価を受けていることには、現に大学に在籍している教職員や学生の力はもちろんのこと、これまでの大学の歴史を通じて培われ発揮されてきた力が大いに与っています。皆さんに期待したいのは、ぜひ、この東京大学の歴史を新たに紡いでいく一人一人になってもらいたいということです。

この4月に入学した皆さんは、東京大学の歴史づくりに参画する資格を得た、ということでもあります。歴史というと、皆さんにとって、それは学ぶ対象であり、皆さん自身が歴史の一部であるという感覚、あるいは歴史を生み出していくという意識は、馴染みにくいかもしれません。たしかに、長く生きるほど、また社会で経験を積み重ねるほど、自分が歴史に関わっていることを実感する機会は増えていくものです。しかし、いま若い皆さんにも、まったく異なる二つの理由から、歴史に対する意識を呼び起こしてもらいたいと考えています。

一つは、グローバル化です。多くの大学もそうですが、今日の東京大学の教育研究は、その歴史の中で経験したことがないほど激しいグローバル化の荒波に曝されています。国際性という意味では、東京大学はその発足当初から欧米の成果を積極的に取り入れながら、学術の高みを追求してきました。しかし、いま直面しているグローバル化は、海外の大学と同じ土俵で教育研究の質を競い合い、協力し合い、研究者だけでなく学生も国境を越えて流動していくという、これまでとは異なる大学の姿を生み出しつつあります。

こうした大きな変化の時期には、その変化の意味や方向を歴史的な視野の中で捉える姿勢をもたないと、向き合うタイミングを失したり、ただ当面の動きに押し流されてしまいます。グローバル化という大きな変動の時代だからこそ、皆さんには、自分がこの大学で学ぶことの意味、学び方を、時には従来の学術のあり方に対する批判的な視点も持ちながら、しっかり考え、行動していただきたいと思います。

もう一つ、皆さんに東大の歴史に対する意識を持ってもらいたいと思うのは、卒業生とのつながりという観点からです。東京大学は創立以来、学部だけをとってみても27万人にも及ぶ卒業生を送り出してきましたが、東京大学の姿を大学の内外で築き続けてきたのが、こうした皆さんの諸先輩です。この間、大学は、卒業生の皆さんとのネットワークをより強化しようと取り組みをすすめてきました。各学部学科や課外活動等の同窓会組織にくわえて、今年度中には全国すべての都道府県で地域同窓会が活動を始める予定ですし、また海外においても四〇以上の地域で同窓会が設立されています。

最近の大きな特徴は、卒業生の皆さんがこれまで以上に大学とのつながり、そして在学生の皆さんとのつながりを強めようと、積極的に活動してくれていることです。たとえば体験活動などでの企画や支援、留学や女子学生支援のための基金作りなど、学生の皆さんとも直接的な接点がずいぶんと増えています。そうした結びつきを通じても、皆さんはきっと、自分が東京大学の歴史の中で学んでいるということを実感するはずです。在学中に、そうした接点を積極的に求めてもらいたいと思いますし、また皆さんがやがて大学を出てからは、今度は卒業生の立場で在学生の皆さんと、さまざまな形で絆を深めてもらえればと思います。そうした積み重ねを通じても、皆さんは、東京大学の歴史を作るのに参画することになります。

このようなことを意識しながら、まずは何よりも、日々の勉学、そして課外活動などに真剣に携わることで、皆さんは、この大学の歴史が生み出してきた知的な資産を自分の力としていくことができるはずです。そして、同時に、そうした真摯な姿勢の集積が、大きな環境変化をも新たな力として取り込んで、大学のこれからの歴史を紡いでいくことにつながります。この東京大学での皆さんの活躍と成長を、心より期待しています。

(東京大学総長)

第564号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報