HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報565号(2014年5月14日)

教養学部報

第565号 外部公開

〈時に沿って〉スリル

栗田岳

昨年の四月に大学院・言語情報科学専攻の助教となって、一年が経ちました。当初は「助教」の役で芝居にでも出ているような気分だったり、(おそらくはストレスゆえに)手がしびれたりしていましたが、いつの間にかそういうこともなくなっていた気がします。僕は博士課程に入って初めて駒場に来たため、そんなに登校する必要もなくて(そのうえ、同じゼミの人から「飛び石連休の栗田」と言われるような出席状況だったので)、ずっとアウェイな土地のままだったのですが、このごろ、少しずつ愛着を感じるようにもなりました。テニスコートを見下ろす土手(?)の辺りが好きです。

専門に勉強しているのは「古代日本語の文法」です。「どうしてその分野を?」と問われた時には、「子どもの頃から、百人一首が好きだったので」と答えることにしています。最初は絵札に描かれた絵だけが好きで、お金がたまると新しいカルタを買いに行っていました(今でも家に四~五種類あると思います)。「持統天皇の服はこっちの方が綺麗だ」などと見比べて楽しむオタク児童だったのです。そのうち、だんだん書かれた言葉のほうにも馴染みが出てきました。「聞き流すだけの英語教材」ではないけれど、単に百人一首を音読したりしているうちに「古代語はこんな感じ」という雰囲気がつかめたように思います。が、「母語以外の言語への関心」を古代語で使い果たしたらしく、その後、外国語にはあまり興味を感じませんでした。そんな自分が、名目上は「英語部会」に所属しているそうなので、なんだか不思議な話です。

授業をするときには、基本的に現代語を扱うようにしています。古代語だと、そうそう内省が働くわけでもないため、「こいつはこんなことを言っているが、この文には適用できないではないか」という学生からの反論が出にくいからです。もともと「瞬発力だけでなんとか切り抜けるスリル」が好きで、できれば授業でもそれを味わいたい。そのためには現代語で授業をするほうが良いと考えています。もっとも、自分で論文を書いたこともない題材で授業をするのは、気が引けもするのですが。

駒場では二回授業をする機会がありました(リレー形式の二つの科目で末席を汚しました)。若干「隙あらば斬る」的な雰囲気を漂わせつつ話を聞き、活発に意見を述べてくれる子もいて、僕としては楽しい時間でした。その場での返答が最適ではなかったと、助教室に帰ってから気づいたこともありました。そのとき、ふと「今やっていた授業を、昔の自分が聞いたら面白く感じるのかな?」と思ったのですが、そんなことを考えさせてくれた学生さんたちにお礼を申し上げます。良い思い出になりました。

(言語情報科学専攻/英語)
 

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