HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報567号(2014年7月 2日)

教養学部報

第567号 外部公開

駒場の音楽活動

小川桂一郎

駒場キャンパスでは、オルガン、ピアノ、室内楽などの演奏会が頻繁に開催されている。オルガン演奏会は一九七七年に九〇〇番教室にパイプオルガンが設置されて以来、今日まで、毎年三―四回開催され、今年は一三〇回目を迎える。その演奏会は、教授会の下につくられた“オルガン委員会”によって、企画運営されている。毎回、国内外の一流オルガニストが演奏し、駒場は、小さな楽器だが非常に質の高いオルガン演奏会が行われるところとして、国内はもとより海外にも知られている。

ピアノの演奏会は、二〇〇六年に駒場コミュニケーションプラザ北館が完成したときから始まった。この建物の二階には、音楽実習室と舞台芸術実習室があり、いずれも、防音の施された三つの小部屋と広い部屋からなる本格的な音楽練習室となっている。とくに、音楽実習室の広間は、天井が高く、残響も長いので、豊かな音響を楽しむことができる。その音楽実習室に、当時の浅島誠学部長が、スタインウェイのフルコンサートグランドピアノを入れることを決められ、ご親交のあった松尾楽器商会の松尾治樹社長のお世話で、同年一〇月に納入された。

コンサート用のグランドピアノの代名詞ともいえるピアノが入ったことによって、駒場でも本格的なピアノの演奏会が可能となった。そこで、このピアノの利用と管理のために、“ピアノ委員会”が組織された。委員は、教養学部の音楽好きな教員ばかり一〇名ほど。そのなかには、音楽が専門のH・ゴチェフスキ氏と長木誠司氏もいる。初代委員長は、このピアノが納入されたときの木畑洋一学部長であった。

ピアノは、使うほどに、そして演奏者の技量が高いほど消耗する。東大にはピアノが上手い学生が大勢いるので、もし、スタインウェイを学生が自由に使えるようにしたら、数年後には相当に消耗してしまう。コミュニケーションプラザには、学生が自由に使えるグランドピアノが四台、アップライトピアノが二台あることを考えれば、スタインウェイを公開せずに特別な場合にのみ使うことにするのはやむを得ないだろうということになった。そのため、スタインウェイは湿度を一定に保った倉庫に保管してある。

ピアノ委員会は、このスタインウェイを使って、性格の異なる二種類の演奏会を音楽実習室で開催している。一つは、国内外の一流演奏家を招いての演奏会、もう一つはオーディションで選ばれた学生による教養学部選抜学生コンサートである。

一流演奏家を招いての演奏会は、二〇〇六年一二月の小山実稚恵さんによるお披露目演奏会を皮切りに、毎年二回ずつ開催し、すでに一六回を数えた。ピアノの独奏会だけでなく、弦楽器や管楽器とのアンサンブル、あるいは、歌との演奏会もある。さらにはスタインウェイを使わずに、チェンバロやフォルテピアノを使った演奏会も開催している。いずれも心に残るとても良い演奏会である。

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第11回演奏会での小山実稚恵さん(2011年4月27日)
駒場での演奏会は、九〇〇番教室でのオルガン演奏会も含めて、聴衆の集中力が非常に高いことが特長であり、そのことはどの演奏者からも異口同音に賞賛される。かつて、九〇〇番教室でバッハの無伴奏チェロ組曲を演奏された鈴木秀美氏は、針が一本落ちてもわかるほど静寂が深いと、その集中力に驚嘆されていた。

音楽実習室は、座席数約一二〇と、ほどよく小さいので、演奏が間近に見られる。演奏者の息づかいも伝わってくるし、身体が震えるほどの大音量の迫力も味わえる。窓からは、ほんのりとライトアップされた樹木も見える。駒場ならではのまことに贅沢な演奏会である。この演奏会の魅力を知ると、他のホールでの演奏会が物足りなく感じられるであろう(写真1)。

一方、教養学部選抜学生コンサートも、駒場ならではの魅力的な演奏会である。演奏者の選抜は、ピアノ委員会によるオーディションによる。第一回演奏会は二〇〇七年三月に催され、以降、半年ごとに開催され、この五月で一五回を数えた。

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第6回教養学部選抜学生コンサート(2009年11月14日)
当初、オーディションが成立するほど応募があるのか心配したが、まったくの杞憂であった。応募数は回を重ねるごとに増え、最近は三〇組近くになったこともある。しかも、非常にレベルの高い人たちが多い。音楽大学に行くつもりでいたのに勉強の成績がよかったので東大に入ってしまった人、東大在学中に国際コンクールに入賞した人、卒業後に音楽大学に入学し、ついにプロのピアニストになった人もいる。

選抜学生コンサートは、そのため非常に水準が高く、東大は音楽大学になったのかと錯覚するほどである。どの演奏も、音楽への愛と若者らしいひたむきさに溢れて、まことに心地よい。出演者はタキシードやステージドレスをまとい、両親や祖父母、大勢の友達で満員の会場は、とても和やかで、サロンのような雰囲気となる。音楽を楽しむ理想的な形の一つといえよう(写真2)。

一流演奏家を招いての演奏会と選抜学生コンサートは、性格は非常に異なるが、どちらも美しいものへの感動を共有しようという点では共通している。それは、教室で学問への愛と畏敬の念を共有しようとする営みとも共通する。

駒場でこのような音楽活動が可能なのは、演奏家のご理解とご厚意があってのことである。ご協力いただいている教職員と学生の方々へも含めて、心より御礼を申し上げたい。2011年には、駒場の音楽活動を後押しするために、「駒場音楽振興基金」が駒場友の会の中に立ち上がった。今後、駒場の音楽活動がさらに発展することを希っている。

(ピアノ委員会委員長/相関基礎科学系/化学)
 

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