HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報568号(2014年10月 8日)

教養学部報

第568号 外部公開

〈時に沿って〉 門の前で

緑川貴文

今年度より東京大学 大学院総合文化研究科・広域科学専攻に助教として着任しました。理学部の所属でしたが駒場の研究室で修士・博士号を取得し、米国カリフォルニア州のUC Davisで三年ほど研究員を務めていました。研究内容は場所によって多少変わっているのですが、シアノバクテリアや藻類・植物を材料に光合成を行うための装置がどのように作り出されるのかということに特に興味をもってやっています。また、学部の基礎生命科学実験も担当しており、夏学期のうちに一通りのカリキュラムを教える側として経験させていただきました。

基礎生命実習はTAとして何度か体験していましたが、この実習、四年ほど前に自分がTAとして見てきた時よりもずっとノウハウが積み重なっているようです。つまり、学生の皆さんがどこで失敗するのか、なんてこともある程度わかっていて、なるべく失敗しないようにという配慮がなされています。実験に失敗はつきものですが、原理を理解しながらやっていれば取り返しのつくことも割とあります。また、普通は何度か同じ実験を繰り返すので、ミスをしない工夫を日頃から考える必要が出てきます。実習は大人数で時間も限られているので仕方がないのですが、こういった部分をどこかで意識して学べると、専門でないところでも役に立つのではないかと感じています。

もう一つ、大学で意識できればと思うことを挙げるとすれば、誰かに尋ねることかもしれません。ちょっと海外に居たからといって日本と比較したようなことを言うのは控えようと心懸けているのですが、あちらでは人に聞くことの敷居が低いと感じました。電車に乗る度に他の乗客から一度は行先を尋ねられましたし(これは車内の案内が不親切なのもあるかもしれません)、試験では5分毎に学生が教授に質問を投げかけていました(そのほとんどは問題文を読み直せばすむものらしいです)。

今はインターネットも便利ですので、聞く前に調べることが簡単にできて、またそれが望まれている風潮もどことなくあるのですが、大学にはいろいろな分野の専門家がいます。教員に限らず、友人や先輩でもいいのかもしれません。是非、気軽にものを尋ねられる人を見つけてみて下さい。自分も実習で何か尋ねられたときには調べて分かる以上のことを伝えられればと心懸けるようにしたいと考えています。

先日ちょっとした機会に恵まれ、中高時代の部活の仲間や恩師と母校を訪ねました。十四年も前に卒業した場所ですが、都内だと言うこともあっていまだに身近にあります。ふと当時の自分も教師に質問をしに行くようなことがなかったことを思い出し、こんなことを書いてみました。時と共に立場は変わってきましたが、考え方も多少は変わっているようです。当時は開きっぱなしだった母校の門が閉められるようになっていたのもまた時代の流れなのでしょう。

(生命環境科学系/生物)

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