HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報568号(2014年10月 8日)

教養学部報

第568号 外部公開

第22回身体運動科学シンポジウム

班目春彦

七月十二日(土)、駒場キャンパス一三号館1323教室において第二十二回身体運動科学シンポジウムが開催された。本シンポジウムは身体運動科学研究室の研究成果を発信することを主な目的としており、一九九三年より毎年開催されている。今回のタイトルは「常識を打ち破る最新スポーツ科学」であり、身体運動科学研究室の教員五名に加えて今年から研究生として在籍している元プロ野球選手の桑田真澄氏が演者として登壇した。以下に各演者の講演内容を簡単に紹介する。

北岡祐助教は「乳酸はアスリートにとって敵? それとも味方?」と題して講演を行った。乳酸は運動パフォーマンスに悪影響を及ぼす疲労物質であると考えられてきたが、必ずしもそれは正しくなく、乳酸が運動時の重要なエネルギー源となっていること、また最新の研究成果として、運動時に乳酸が脳で取り込まれている可能性があることを報告した。

小笠原理紀助教の演題は「運動による筋サイズ調節の科学――常識を覆す最新エビデンス――」であった。筋力トレーニングによる筋肥大において同化ホルモンは主要な役割を果たすと考えられてきたが、最近では否定的な研究結果が多く得られているとのことであった。また、従来は筋肥大を生じないと考えられていた低い負荷のトレーニングであっても疲労困憊まで運動を継続することで筋肥大が生じることを報告した。

吉岡伸輔准教授は「スキー研究へのチャレンジ」と題して慣性センサを用いた現在開発中の新しい計測手法について講演を行った。バイオメカニクス研究において主流となっているビデオカメラによる計測は計測範囲に制約があり、スキー動作の計測には適さない。これに対して慣性センサは広い範囲に亘って計測が可能であり、スキー動作の解析において有用であることを報告した。

工藤和俊准教授の演題は「熟達化のダイナミクス」であった。運動指導においてしばしば耳にする「リラックス」が練習を必要とする高度な運動スキルであることや練習のやり過ぎが脳に悪影響を及ぼす可能性があることなど、近年の神経科学的研究によって明らかになってきた運動の熟達化に関する知見を報告した。

中澤公孝教授の演題は「小学生でも150km/hを打てる?」であった。野球のバッティングにおいては脳による高度な情報処理と運動制御が必要とされる。この神経系の発達について「小学生が150km/hを打てるのか?」という問いに神経生理学の見地から答える内容であった。

桑田真澄氏は「野球界の常識を疑え!」と題して講演を行った。前半は桑田氏が早稲田大学大学院において行った「野球道」に関する研究の紹介、後半は多くのプロ野球選手が主観的に捉えている自身の動作と実際の動作には乖離があることを紹介する内容であった。

六人の演者による講演が終わった後に総合討論が行われた。会場フロアからも多数の質問が出て盛況のうちにシンポジウムを終えることができたように思う。研究者は日頃、学会のように専門家同士で話をすることが多いのだが、本シンポジウムは専門家ではない方々に当研究室の研究内容を伝えるとともにご意見を頂くことのできる貴重な機会となっている。ご参加下さった方々に感謝申し上げたい。

(生命環境科学系/スポーツ・身体運動)
 

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