HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報569号(2014年11月 5日)

教養学部報

第569号 外部公開

はじめての英語による化学・生命実験実習講義

中村優希

本年度の春学期に、PEAK(Programs in English at Komaba)コースの学生へ向けた、化学・生命合同実験実習講義(国際環境学特論)を英語で実施した。本プログラムで理系の実習講義を開講するのは、はじめての試みだったことから、色々と得るものも多かった。今回は、レポートを兼ねて本実習での講義内容と学生の反応を紹介していこうと思う。

まずは、PEAKコースについて簡単に説明しよう。*本コースは, 教養教育の充実と発展、ならびに「学際性」や「国際性」をキーワードとする先進的教育研究に取り組んできた教養学部が、全学的協力のもとに海外から優秀な学生を集め、英語で教育しようという趣旨から開設することとなったコースである。学生は、最初の2年間で前期課程カリキュラムの「国際教養コース」を履修し、後期課程(3・4年生)で「国際日本研究コース」あるいは「国際環境学コース」に進学して、専門課程カリキュラムを履修する(*PEAKのHPを参照:http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/peak/index.html)。

今回の実習講義は、PEAKの「国際環境学コース」の学生を対象として、毎週月曜日の3?4限に、化学と生命の2つの分野を前半と後半の2部に分けて実施したものである。筆者は、前半の化学分野の実習を6週間に渡って担当した。様々な国で異なる教育を受けてきた学生が集まってきていることから、化学の知識をあらかじめ統一させて実験に望んだ方がより効率的なのではないかという狙いのもと、各実験種目に関連する講義を事前に行い、その翌週に実験を行うといった形で計3種目の実習を構成した。

3つの実験は、有機化学、分析化学、および物理化学の基礎に触れるものである。現在、駒場で日本人の学生を対象とした化学実習講義で使用されている教科書「基礎化学実験」(東京大学化学部会編集・東京化学同人出版)の全12種目の中から3種目を選択した。その際に、和文から英文に翻訳する作業にも取り組み、これを実習書として用いて指導にあたった。

はじめての試みということで不安もあったが、学生が想像以上に意欲的で、少しでも多くのことを学びたいという熱心な姿勢に、教える側としても非常に刺激を受け楽しむことができた。元々懸念していた学生の化学に関する知識や経験の相違については、実際、高校を卒業するまでに化学の実験や講義を受けたことのない学生や、基礎化学実験をある程度行ってきた経験のある学生など、知識のレベルはまちまちだった。

しかしながら、講義と実験実習を交互に行うスタイルでスムーズに指導することができた。学生からも講義の構成は評判が良く、意外なところでは、「実験の週の拘束時間は長いけれど、授業の週は比較的早く講義が終わるのでバランスがとれていて良かった」等というコメントもあり、実験がはじめての体験となる学生にとっては、学んだことを整理するうえで効果的に働いた側面もあったのだろうと感じた。

後半の6週間では、同部門の特任助教である王旻(わんみん)先生が生命分野の実習を担当した。生命実習のスタイルは化学分野とは違い、バクテリアや菌類についての実習が毎週実施され、実験の前や合間に実習内容に関する講義が行われた。テキストは、東海大の笹川昇准教授が日本人学生向けに執筆された、生命実習の教科書を英訳したものを実習書として使用した。

学生からは、「実際に研究室等で用いられている実験手法を体験できたことで、生命に対する興味がより一層深まった」と高い評価を受けた。13週目の最終講義では、化学と生命の合同実習として、生命関連の実験で頻繁に使用されている緑色蛍光タンパク質(GFP)の電気泳動実習をはじめて行い、緑色に光るタンパク質が無事観測でき実験が成功したことに、学生のみならず我々も含め皆で歓喜した。

本実習講義を履修していたPEAKコースの学生たちは、皆が非常に熱心で、講義の最中でも化学と生命の両分野で数多くの質問が絶えず出ていた。初回のガイダンスに出席できなかった学生が、補講を行ってほしいと後でオフィスへ出向いてきたこともあった。学生7名に対して教員と2名のTAが加わっての実習指導だったため、学生全員に対して細やかな指導ができ、学生からも「質問したいと思った時に必ず誰かがいてくれたことが良かった」と好評だった。

また、最終講義で実施したアンケートには、「実習講義を通じて、これまで教科書や授業から学んできた知識が、より深く理解できて楽しかった」といった感想や、化学の実験数が3種目と少なかったことに対しては、「もっと化学の実験も体験したいので、来学期も実習講義をやってほしい」という嬉しい要望も多数集まった。筆者自身、学生の頃に実験実習から多くのことを学んできた。学生にももっとたくさんの実験を体験してもらうことで、化学の面白さを体感してもらいたいという気持ちから、今後、更に実習講義数を増やしていくことも視野に入れている。

熱心な学生たち故に、その他にも「ここをこうしたらもっと良くなるのではないか」という意見もアンケートや授業を通じて寄せられた。ありがたいことに、今後講義内容を更に充実させていくうえでの自由度は非常に高い。より良い実験実習を提供することで、講義や教科書からだけでは学びきれないものを楽しく効率的に習得できるように、学生たちの期待に応えつつ、これから一緒になって築き上げていきたいと考えている。

英語による実習講義は,現時点においては外国人学生を対象としたものだが、今後、日本人学生にも英語による授業に積極的に参加してもらえるような講義へと発展させていければと考えている。わざわざ海外へ留学せずとも、PEAKの学生たちとの交流を通じてグローバルな視野を一層広げることに少しでも貢献できればと願っている。

(教養教育高度化機構/自然科学高度化部門)

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最終講義での化学・生命の合同実習にて

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緑色蛍光タンパク質(GFP)の観測

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化学の「原子スペクトル」実習にて

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