HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報575号(2015年6月 3日)

教養学部報

第575号 外部公開

駒場で脳イメージング

四本裕子

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本年4月より稼動開始したシーメンス社製
MRI装置Prisma
銀杏並木の北側生協よりに、実験棟21 KOMCEE EASTが建ちました。昨年度、ガラス張りの美しいこの建物の完成とほぼ同時に、その地下の高度教育開発室に、ヒトの脳機能イメージングのためのMRI装置が入りました。

MRI装置は、大きなチューブ状の形をしていて、この機械の中にさまざまなコイルが入っています。被験者はこのチューブ状の開口部の中に頭が入るように横たわり、その脳の画像が撮像されます。機械の中のコイルの一つは、強力で均一な静止磁場を形成します。MRIは、この静止磁場内で平衡状態となる体内の水素原子核の、電磁波に対する反応を利用することで、脳の構造や機能を可視化します。磁場が強力であるため、MRI装置はシールドルームの中に設置されています。また、MRI装置に隣接して、装置の制御や冷却のための機械が設置されている機械室があります。つまり、21KOMCEE  EASTの地下の、高度教育開発室という部屋があり、さらにその中にシールドルームと機械室が設けられているわけです。

今回、東京大学に設置されたMRI装置は、Siemens社のPrismaという機械です。日本ではほぼ同時期にMRIが設置された北海道大学に次いで二台目となる、最新型MRIです。昨年度の試験運用を終え、本年度四月より、東京大学の共同利用実験施設として稼働を始めました。稼働開始を記念して、東京大学進化認知科学研究センター主催で、三月二七日、駒場キャンパス一八号館ホールにて「駒場MRI実験施設立ち上げシンポジウム」を開催しました。

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駒場MRI実験施設立ち上げシンポジウム
講演者として、京都大学こころの未来研究センターの吉川佐紀子先生、京都大学大学院情報学研究科の水原啓暁先生、国立障害者リハビリテーションセンターの幕内充先生、脳情報通信融合研究センターの西本伸志先生をお招きしました。東京大学からは医学部精神医学教室の笠井清登先生、人文社会系研究科の小川昭利研究員、総合文化研究科の四本裕子がMRIを用いた研究について発表しました。講演の内容は、文処理のメカニズム、計算論的ニューロイメージング、脳活動予測モデル構築、脳波とfMRIの同時計測、精神疾患研究、加齢研究など、多岐に渡りました。この講演内容の多様性こそが、現代科学において、幅広い研究分野で脳機能測定が活用されていることを示唆しています。

京都大学こころの未来研究センターは、三年前より大学内の共同研究施設としてMRI装置を運用しています。こころの未来研究センター長の吉川先生からは、体験セミナーやデータ解析講習会の開催など、京都大学で行われている試みについてのお話や、こころの未来研究センターによる、さまざまな研究成果をご紹介いただきました。今後は、MRIの運用を通して、東京大学と京都大学の間で、研究者や学生の交流をより深いものにしたいと考えています。

駒場ⅠキャンパスのMRI装置は、研究だけではなく、駒場キャンパスでの教育にも活用されます。今年度より、教養学部後期課程の学生を対象としたMRI演習が開講されています。また今後は、初年時ゼミナールや全学自由ゼミナールを利用して、教養学部前期課程の学生もMRIを用いた脳科学を学べるよう、制度が整えられつつあります。既にこの装置を用いたMRI実験に被験者として参加し、ご自分の脳の断面図を観察した教養学部の学生も数多くいます。意外と簡単に自分自身の脳を見ることができて面白かったと話してくださる方も多いです。いまや脳科学研究に欠かすことのできないMRIですが、研究用MRIをキャンパス内に所有し、講義や演習を通して、学部生や大学院生がその装置に触れられるという環境がある大学は、世界でも稀です。この環境が、東京大学の構成員の研究活動や教育活動に最大限に生かされることを、関係者一同、心より願っています。

(生命環境科学系/心理教育)

 

 

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