HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報580号(2016年1月 6日)

教養学部報

第580号 外部公開

シンポジウム 「東京大学『初年次ゼミナール』の挑戦」報告

増田 建

2015年11月23日(月) 於・21 KOMCEE West

11月23日(月)に駒場祭の学術企画の一つとして、「東京大学『初年次ゼミナール』の挑戦」と題したシンポジウムを教養教育高度化機構初年次教育部門の主催で開催した。会場の21 KOMCEE West地下のオープンスペースアリーナには約90名の来場者が詰めかけ満員となり、盛況の中で行われた。初年次ゼミナール(初ゼミ)は今年度より開講された新たな基礎科目であり、高校までの受動的な学びから大学での能動的な学びへの学生の意識変革を目的とした、新たな少人数制の必修授業である。本シンポジウムでは、初ゼミ理科および文科それぞれの概要や目的を初年次教育部門の特任教員(松本特任講師、岡田特任准教授)が説明した後、授業を担当した教員、学生、そしてティーチングアシスタント(TA)が、取り組み内容や成果・改善点を発表した。

初ゼミ理科については、まず農学生命科学研究科の高橋伸一郎准教授が担当された「私たちの身近にあるワンパクなタンパク質を科学する」での取り組みを紹介された。高校から大学への学びの転換にはコペルニクス的転回が必要であると語られた後、具体的な取り組み内容が説明された。本授業は多数の教員が参画して練り上げられたものであり、学生達を巻き込んでグループワークを展開するために工夫が凝らされ、初ゼミ理科の中でも最も活気があった授業の一つであった。学習成果であるユニークなプレゼンテーションが紹介された後、受講した学生二名が授業についての感想を述べた。自分が希望する分野の授業ではなかったものの次第に内容の面白さに引き込まれていったこと、工夫した上で実験がうまくいったことへの達成感や研究の面白さ、また毎週の授業を楽しみにしていたことなど、学生の生の声が聞かれた。

情報理工学系研究科の山崎俊彦准教授による「数学・物理をプログラミングで考える」では、数学・物理の数式をプログラミングを通して実践したことが述べられた。非常に高い意欲と能力を持ち、教員自身も取り組みをためらうほどの難しいテーマに取り組んだグループもあったことが紹介された。学生らは最終授業でコンピューターシミュレーションの結果をコンペ形式で発表し期待以上の学習効果を修めたが、一方で学生間の実力差に応じた指導方法の工夫が課題として残されていることが指摘された。

初ゼミ文科については、総合文化研究科の遠藤泰生教授が「グローバル時代における地域文化研究」について紹介された。グローバル化の中で急激に変化する地域文化研究という学問そのものに起因する不安があったが、重層的な地域知を探求するプロセスをともに歩むという役割を果たすことで、多種多様な関心を持つ学生達と活気ある授業が展開できたことが紹介された。学生が最初に提出したトピックと最終的な成果物である論文の実物を示しつつ、複数回の個人面談を通じて学生の持つ漠然とした問いを学術的な問いに仕立て直した工程が具体的に語られた。最後に、教員に求められる資質として、個人・社会・学術から成る知の立体空間の中に学生が自分の研究を位置付ける手助けをすることの重要性が強調された。

次いで、学生により「初年次ゼミナール文科を振り返って」と題する発表が行われた。履修生に対して独自に行ったアンケート調査にもとづき、毎週課題が出たり、授業に対する要求度が高い授業の学生たちが不公平に感じていた一方で、結果的に多くのものを得たという実感を持つ傾向にあることが報告された。この結果をふまえ、教員に対して、学生が論文執筆に向けて段階的に学んでゆけるような課題を課すことや、アウトプットの回数を増やす工夫をすることが提案された。また、継続的かつ段階的に自分の研究を進める主体性を身につけることと、ラーニングコモンズで他の学生と研究を見せ合う等、切磋琢磨する機会を自ら作ることの重要性を、来年の一年生に伝えたいという希望が表明された。

最後に、文科の授業TAおよびラーニングコモンズTAを務めた大学院生、中村長史さんが「持続可能な能動的TAを目指して」という発表を行った。初ゼミ文科の授業の特性から、従来の授業における受動的なTAに比べて一歩進んだ能動的TAとしての役割が求められることを示し、このような取り組みを持続可能にするために、TAとしての業務と研究との相乗効果を生み出すことの重要性と、歴代TA達の知識・経験を集積したマニュアル作成の必要性が述べられた。

以上のように、本シンポジウムでは今年度から始められた初ゼミについて、様々な立場からその成果や改善点について紹介され、非常に意義深い内容であった。聴衆からのアンケート結果も好評であり、来年度以降も機会を見つけて開催していきたいと考えている。

(教養教育高度化機構/初年次教育部門/生物)

 

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「数学・物理をプログラミングで考える」の概要を報告する山崎俊彦准教授

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