HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報583号(2016年5月11日)

教養学部報

第583号 外部公開

<後期課程案内>学際科学科

学科長 瀬川浩司

学問の先端を捉える学際科学

http://www.ids.c.u-tokyo.ac.jp

現代社会が抱える様々な問題の解決には、学際的なアプローチが不可欠である。しかしながら、大学の講義の多くは単一の領域に限られていて、ある種の物足らなさを感じてきたのではなかろうか。かたや大量の情報がネット上にあふれる中で、ただ単に大量の知識を積み上げるだけであれば大学で長い時間をかけて学ぶ価値は無い。では、大学では何を学ぶべきなのか。

ここで現代社会が抱える問題をいくつか考えてみてほしい。それが科学的、技術的に解決可能だとしても、経済的には成り立つのか。取りうる政策は政治的には可能な選択なのか。人の心の問題をどうするのか。未来の世代に対する責任をどう果たすのか。一つの尺度で優劣が付けられるものであっても、異なる尺度による判断を比較して正しい道を決定づけることは本当にできるのか。このような選択は、実社会のあらゆる場面で必要になる。現代では、異なる学問分野を繋いで包み込む学際的な構成力やそれをもとにした判断力、即ち力強い学際的な方法論が求められているのである。

ここでいう「学際」とは、単に学問Aと学問Bを繋ぎ合わせて達成できるような簡単なものではない。場合によっては、これまでにない学問領域を自ら作り上げ、その上に乗って多数の学問をまとめ上げることも必要になる。学問と学問の狭間ではなく学問の先端cutting edgeとしての「学際」であり、ミッションをはっきりさせた目的志向の「学際」である。こうしたアプローチは、既存の「文系」や「理系」の学問の中に納まるはずが無く、当然のごとく文理融合にたどりつく。学際科学科では、個々の教員が「科学的アプローチで社会を理解する」「科学技術の社会的価値を考える」「生態系を数理科学で考える」といった既存の学問分野では扱いきれない課題に取り組んでいる。こうした学問は、さらに大きな社会的課題に取り組むためのトレーニングになる。

学際科学科は、「科学技術論コース」、「地理・空間コース」、「総合情報学コース」に加え本年度から地球システム・エネルギーコースを「広域システムコース」に改組し新たな4コース体制を発足させる。

「科学技術論コース」では、「自然科学の基礎的な理解と人文社会科学に関する幅広い知識に基づき、科学技術が現代社会に提起している問題を深く検討し、積極的な提案をなしうる人材を養成し」ている。すなわち、科学哲学、科学史、科学技術社会論等を修得したうえで、それらを統合して、現代の複雑な問題を学際的に解決できる人材の育成を目指している。

「地理・空間コース」では、「地理学をはじめとする空間諸科学を基礎に、地理情報システム、フィールドワーク、空間デザインといった調査・分析ツールを修得させつつ、空間による社会の制約、社会による空間の構築・再編という視点から現代社会の諸問題を論理的に思考し、政策や計画立案といった実践的・応用的能力をも備えた人材の育成」を目指している。すなわち、地理学をはじめとする空間諸科学の理論や方法論を統合し、現代の複雑な問題を学際的に解決できる人材の育成を目指している。

「総合情報学コース」では、「コンピュータネットワークやプログラミングなどの情報科学・工学の知識を習得するとともに、ICT技術を駆使しながら、文理を横断した、さらには文化芸術までをも包含する総合的な情報学を体得することができる。すなわち、情報学の理論や方法論に立脚しつつも学際的に、これまでは理系の守備範囲外だった問題や事象にまで分析のメスを入れることのできる人材の育成を目指している。

「広域システムコース」は、自然界が持つ階層性を多面的に捉え、広い視野と高度な専門性、政策立案能力などを身に付けた人材を養成する。具体的には、数理科学やシステム論的思考に基礎を置き、地球や太陽系の成り立ちを理解するための基礎科学、生物多様性を理解するための生態学や系統学、 進化学、さらに物質やエネルギーなどを理解するための基礎科学を修得する。また、本コースでは、さまざまな国際的課題の解決に必要な幅広い知識の習得が可能なカリキュラム構成になっており、国際的に活躍できる人材が育つことを期待している。一部は、教養学部附属教養教育高度化機構環境エネルギー科学特別部門とも連携しながら、環境政策、エネルギー政策などについて、高度な専門性と広い視野をもった人材を養成する。

学際科学科が目指すものは、現代の広く複雑な問いに答えようとする人材の養成である。このため、文理の境界を越えた学際的な対処を行える人材の育成のために、四つのコースの垣根を越えて複数のコースが提供する授業も用意されている。この学科には、広い視野をもち、新しい領域を意欲的に切り開こうとするチャレンジ精神あふれる学生に学際科学科の扉をたたいてほしい。

(学際科学科長/広域システム科学/化学)

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