HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報583号(2016年5月11日)

教養学部報

第583号 外部公開

<本郷各学部案内>文学部

副研究科長 佐藤宏之

人文学の伝統と新たな試み

http://www.l.u-tokyo.ac.jp

東大文学部は、東京大学創設時に設置された古参学部のひとつである。現在二七にもおよぶ専修課程のいずれもが、日本の人文社会諸学を牽引し先導してきた伝統をもつ。と書くと、何やら古色蒼然とした「象牙の塔」を思い浮かべるかもしれないが、けっしてそんなことはない。いわゆる「哲・史・文」に社会科学からなる四学科(思想文化・歴史文化・言語文化・行動文化)制は文学部の基本的な構成単位であったが、近年の人文社会諸学に見られる知の越境性・流動性の活発化を鑑み、今年度から人文学科という一学科へ統合・改組することとなった。

もちろん基礎的な学問領域は維持しつつ、横断的な人文知の新領域開拓を積極的に目指すことを意図した改革である。従って、専修課程からなる進学選択の単位に基本的な変更はなく、各専修課程における修学と同時に、自らの問題関心に拠った多様な授業を効率的に選択できるようなカリキュラム改革を行った。どの専修課程においても、駒場二年次から開始される専門教育は、導入・基礎から展開・応用へという順で学習できるように工夫されている。専修課程の授業は、まずは各専門領域の基礎教育が重視されるが、一方関連分野や他の人文学諸分野に興味のある学生、あるいは広く知的好奇心の赴くままに教養や知識を身に付けたいと希望する学生には、多数の後期教養教育科目が用意されている。ちなみにこの後期教養教育科目は、本郷・駒場の後期課程全体にも開放されている。

文学部はもともと語学教育に力を注いできた。英語による授業はもちろんのこと、アカデミック・ライティング(英語)の授業も充実しており、専門職や研究者を目指す学生に対しては、大学院ではあるが、中級・上級コース(英語)やフランス語・ドイツ語・中国語による論文作成能力を養成する授業も開講している。文学部では伝統的に少人数での演習を重視しており、そのためこれまでは後期課程二年間の演習受講を必修としてきたが、この度この条件を緩和し、少なくとも半年は標準年限内での海外修学・留学を可能とする制度に改めた。

文学部では、各専修課程が提供する専門教育科目以外にも、「死生学」や「応用倫理」といった領域横断的で今日的な課題に関する教育プログラムを提供しているが、一昨年からは、「新・日本学」や「サマー/ウインター特別プログラム」といった国際交流事業にも力を入れている。特に「サマー/ウインター特別プログラム」は、英国セインズベリー日本藝術研究所との学術協力協定に基づき、夏は本郷キャンパスと北海道北見市にある人文社会系研究科附属常呂実習施設で、冬は英国ロンドンおよびセインズベリー研究所の所在するノリッチにおいて、各二週間の研修教育プログラムを行っている。プログラムには東大の学部生五名と欧州各国の学部生五名が参加し、英語を使用言語として、考古学・歴史遺産・文化資源・美術史等の博物館・美術館・史跡見学・講義等を共に体験してもらっている。特に夏のプログラムでは、二週間全員が寝食を共にして活動に参加するので、極めて濃密かつ実態的な交流が可能となっており、受講生の体験レポートでも非常に評判がよい。常呂実習施設での朝晩の食事は、東大生と外国人学生のペアによる自炊なので、否が応でも互いの意思疎通が必須となり、プログラム終了時には全員が打ち解けた間柄になっている。ちなみにこのプログラムは、文学部生だけではなく、全学の学部生にも開放されている。

近年世界の一体化・流動化はますます激しさを増している。ややもすると、新自由主義的な経済効率が価値軸の主体を構成するかのような言説が蔓延しているが、それは正しいのであろうか。確かに人文学は、短期の効率性という評価にはそぐわないかもしれないが、中長期にわたる価値を基礎に立ち返って捉え直し考察することこそ、現代社会に必要な営為なのではないか。さらには、そもそも多様な価値を相互に比較し、あるいは新たな価値軸を創造することこそ、人文社会諸学の醍醐味である。

(副研究科長/考古学)

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