HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報583号(2016年5月11日)

教養学部報

第583号 外部公開

<本郷各学部案内>薬学部

薬学部長 新井洋由

小さくとも活力を自負する薬学部

http://www.f.u-tokyo.ac.jp/

皆さん最近「創薬」という言葉をよく見聞きすると思います。実はこの言葉は1990年頃、すなわち比較的最近できた造語でありまして、それ以前は「医薬品開発」という言葉が使われておりました。「医薬品開発」という言葉に比べて「創薬」という言葉にはより科学的な意味合いを感じませんか。実はその通りで、現在の医薬品開発は、最先端の科学的知見を必要としており、また実際に活用されています。「科学的大発見無くして革新的医薬品は生まれない」という私の尊敬する研究者の言葉はまさに現在の創薬状況に当てはまります。東京大学薬学部・薬学系研究科は、新しい生命現象の発見、新しい合成技術、分析技術の開発を通して、非常に基礎的な「科学」そのものを探求するとともに、これにより得られた成果を最先端の創薬に生かす、という立場で教育・研究活動を行っているところです。

言うまでも無く、創薬研究には、生命・疾患を理解する、それを操作する(低分子)化合物を探索・合成し、その生命との相互作用を解明する、というように様々な学問領域が必要となります。そのため、薬学部では、有機化学、生物学、微生物学、物理化学、分析化学等の基礎的学問は元より、創薬を目的とした薬物動態学、薬品作用学、天然物化学、さらに創薬の最終段階に関わる医薬品評価科学、医薬政策学、育薬学等の学問を、2年生後半から3年生いっぱい基礎をきっちり学ぶことになります。これらの教育を19の基幹講座と四つの寄附講座の教員を中心に行っていますが、さらに、附属薬用植物園、医学部附属病院薬剤部、分子細胞生物学研究所、大学院医学系研究科、大学院新領域創成科学研究科、医科学研究所、アイソトープ総合センター、臨床研究支援センターから約10名の教授、准教授が薬学系研究科を副担当としており、研究・教育に協力していただいております。

3年生になると、毎日午後は各研究室持ち回りの指導による実習が1年間に渡って行われます。この間に、講義のみでなく実験という実際の操作によって上記の学問及び研究のやり方を経験してもらいます。薬学部は1学年の学生数が約80人の小所帯ですが、この実習を通して学生同士の交流がより深いものになりますし、各研究室の教員や大学院生とも知り合うことになり、その研究内容や研究室の生の雰囲気も知ることができます。これは薬学部教育の一つの特徴と言えます。

平成18年4月、学校教育法・薬剤師法の改正により、東京大学薬学部は、学部4年間+大学院5年間のコースからなる「薬科学科」(定員約9割)、及び高度な医療系薬剤師の養成を目指した学部6年間+大学院4年間のコースからなる「薬学科」(定員約1割)の2学科を設置しました。学生は3年生の後半にどちらかの学科を選ぶことになります。具体的にはそれまでの成績・面接等によって選抜します。4年生になりますと、薬科学科、薬学科ともに、各研究室に配属され、研究室の教員の直接指導のもと卒業研究を開始し、世界最先端の研究に自らも参加してもらうことになります。薬学科の学生は4年生で卒業、学士号取得しますが、ほとんどの学生がこの経験を土台にして、大学院修士課程に進学しています。修士課程には外部の大学・学部からの入学者も加わり総勢約100人となりますが、博士課程には約半数が進学しております。

修士課程修了者は、ほとんどが、製薬、化学、食品、化粧品系の企業や官庁などに就職しております。博士修了者の場合は、約半数が大学や公的機関の研究者の道を選び、半数が企業・官庁等に就職しております。企業の場合でも多くが企業の研究職についております。薬学科の場合、6年生で卒業となりますが、その間にCBT・OSCIという薬剤師資格を取るための予備試験、病院・薬局実習などの独特のコースを取得し、最後に薬剤師国家試験を受けて卒業となります。薬学部では薬剤師教育の強化に向けて、平成26年度より医療薬学教育センターを設置し薬剤師国家試験に対して積極的な取組みを行っております。その結果、国家試験を受験した者の合格率は現在まで4年連続100%を達成しております。卒業者は、病院薬剤部などに就職する学生もいますが、その後の4年生博士課程に進学する学生も増えてきました。東京大学薬学部卒業で薬剤師資格を持つ博士はその能力だけでなく非常に希少価値の大きい存在です。その後の就職等将来に大きな道が開けているのは言うまでもありません。

薬学部での卒業発表は各研究室で行いますが、修士、博士両課程とも最終年次に薬学部全教員及び大学院生に公開された研究業績発表会が行われます。大学院生は、自ら出したデータを堂々と喋れるようにと、また、少なくとも友達の前で恥をかかないぞ、という気持ちで、昼夜を問わずまた休日返上で研究に没頭しています。また、公明正大な発表の場ということで、不条理な意見や評価が出てくることも全くありません。

前に記しましたように、薬学部は20人強の教授陣と1学年80人程度学生という非常に小さな学部です。建物も本部棟の横の一箇所に固まっています。そのため学生同士、教員同士、研究室同士の風通しが非常に良く、必然的に分野横断型の教育・研究活動を実施しているというのが薬学部の最も大きな特徴です。さらに年間を通じての、スポーツ(サッカー、バレーボール、バスケットボール、ソフトボール)交流、千葉検見川運動場でのスポーツ大会、埼玉戸田ボートレース上での水上運動会等、研究以外の交流も非常に盛んです。薬学部は、研究のやり方から個人的な悩み事まで何でもいろいろな人の意見を聞きやすい環境ですし、学部長・研究科長としてもそのような環境を維持していこうと思っております。

皆さん、東京大学という難関を勝ち抜いてきたのですから、これまで一生懸命勉強をしてきたと思います。しかし、これまでの勉強はやるべき内容が明確で正解も必ずあるという問題の解決に終始してきましたが、これからは、新たな問題を自分で探し出し、それを自分の力で解いていくという活動に移っていかなければなりません。そのための真の「学び」を見つけ出せるように期待しております。

(薬学系研究科長・薬学部長)

 

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