HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報583号(2016年5月11日)

教養学部報

第583号 外部公開

<時に沿って>駒場で再び始める

加治屋健司

今年4月に超域文化科学専攻の表象文化論に准教授として着任しました。主にアメリカと日本の現代美術史を研究していますが、最近は他の地域の動向についても調査をしています。

駒場はなじみのあるところです。学生として、学部生から大学院博士課程まで14年も在籍していました。途中でアメリカに留学したので、実際に通ったのは8年ほどでしたが、中学と高校も駒場にあったので、少なくない年月を駒場で過ごしましたし、これからその時間は増えそうです。

私は自分の研究分野を決めるまで、ずいぶん迷いがありました。まず法律に関心があったので文科一類に入学しました。しかし同時に映画にも興味があり、当時、蓮實重彦先生が1、2年生対象に開講していた映画論の授業に出たところ、とても面白かったので、教養学部の表象文化論に進学することにしました。そして、経済学にも興味があったため、経済学部の岩井克人先生に相談して、3年生のときにゼミ生にしてもらい、週に一回本郷に通いました。でも4年生になる頃、最終的に、昔から興味があって、かつ、自分にとって大きな謎に思えた現代美術を研究することにしました。

こうして学部の4年間を振り返ると、いかにも節操がなかったように見えます。もっと早く自分の関心の対象を見定める人は多いでしょう。しかし、こうした判断の猶予─判断の変更といったほうが正確でしょうか─が可能だったのは、様々な学問分野を学ぶことができる駒場のリベラル・アーツの伝統ゆえではないかと思います。その意味で、駒場に大きな恩恵を受けたと感じています。

冒頭に書いたように、私が主に研究しているのは、アメリカと日本の現代美術史です。アメリカの美術批評の研究から始めて、モダニズム絵画であるカラーフィールド絵画で博士論文を書きました。大衆文化を排除するモダニズム絵画が、その論理を徹底させることによって、かえってそれを裏切る帰結を招いたことを、カラーフィールド絵画を中心に論じました。アメリカ美術を研究する一方で、グローバル・モダニズムの視点から、戦後日本美術を再解釈する研究も行っています。現代美術は、一国内で完結することはほぼなく、世界的な繋がりのなかで生じているからです。近年では、同様の視点に立って、イギリスやアジアなど他の地域についても研究を広げています。

これから駒場で再び活動を始めることになります。駒場に赴任する前は、芸術系大学で美大生に現代美術史に教えていました。それゆえ、アーティストを目指す学生に対して、知っておくべき作品や思想について話すことが多かったのですが、これからの講義は、研究者の視点から現代の研究動向を踏まえて行うことになります。現代美術について学びたい人、研究したい人はぜひ来て下さい。

(超域文化科学/英語)

 

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