HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報584号(2016年6月 1日)

教養学部報

第584号 外部公開

グローバルコミュニケーション研究センター(CGCS)主催
3つの言語でひらく新たな地平

中尾まさみ

─東京大学トライリンガル・プログラム公開シンポジウム─
(2016年3月12日)

トライリンガル・プログラム(TLP)は、母語を含めた三言語を駆使し幅広い視野をもって国際社会で活躍する人材の育成を目指し、2013年度に東京大学グローバルリーダー育成プログラム(GLP)の一環として発足した。当初は、英語・中国語の教育プログラムであったが、今年度からは、これに加えてドイツ語、フランス語、ロシア語も始まっている。

グローバルコミュニケーション研究センター(CGCS)では、TLPの最初の3年間の成果報告を行い、また今後のあり方を考える場として、去る3月12日に公開シンポジウムを開催した。当日は、学内外から200名を超える聴衆が会場を満たしたが、この中にTLPの将来を担うかも知れない高校生の姿が数多く含まれていたことは、主催者にとって大きな喜びであった。

第1部では、プログラム概要、授業の実際、履修生による報告の三つに分けて英語と中国語の成果を概観したほか、新規三言語がそれぞれのプログラムについて紹介した。TLP生は、英語を習熟度別英語科目「教養英語」のグループ1(上位300名程度)で履修するが、このほか総合科目L系列(選択必修)でも「英語上級」という、英語圏の大学のセミナーの形式をとった科目が開講されている。

TLP中国語は、4名の特任教員が担当しているが、その厳しくも熱意にあふれた指導には定評がある。授業の詳細が報告されると、この三年間で学生の能力や要望に合わせてそのカリキュラムが進化し続けてきたことが明らかになった。時には、「もっと進度を上げてほしい」「もっと高度な教材で勉強したい」という訴えが教員を驚かせたというが、こうした向学心は真摯に受け止められ、応えられてきた。

最初の修了生が出た2015年度には、教養学部後期課程に「後期TLP」が発足した。前期課程で培った語学力を駆使して英語・中国語で文理に亘る専門科目を学ぶこのプログラムは、本郷に進学した修了生からも履修の希望が強く、また修了生と同等の語学力があれば新たに参加することも可能だ。

履修生による生き生きとした報告は、とくに同世代の聴衆の関心を集めた。TLPでは、上級英語研修(シドニー)、中国語研修(南京)、上級中国語研修(北京)を行ってきたが、異文化に触れ現地の人々と交流する機会を、履修生が積極的に活用し楽しんだことがその体験談から窺えた。また、南京で履修生たちがお世話になった朱小易南京大学海外教育学院副学院長もこのシンポジウムに合わせて来日し、現地での学生たちの熱心な学びの様子を紹介した。

第2部は「そしてこれから〜多言語教育と国際人材養成の未来〜」と題し、パネルディスカッションを行った。パネリストは、範従来南京大学校長助理・海外教育学院院長、GLP推進室長でもある石井洋二郎本学理事・副学長、そして総合文化研究科から刈間文俊教授、トム・ガリー教授。

まず石井理事から、複数言語を学ぶことは、それらの言語間を往復しつつ比較・思考し続けることであり、そうして自分の立ち位置を客観的に知ることになる、と多言語教育の意義について発言があり、次に範校長助理からは、南京大学と東京大学の交流の蓄積をもとに、今後教員間の交流や教育資源の共有による教育の質の向上を目指すことが提案された。

TLPに草創期から関わり、中国語プログラムの中核を担って来た刈間教授は、その歴史を概観した上で、TLPが文科生・理科生双方に意味のある教養教育として構想されてきたこと、また能力と意欲のある学生には、それに応える教育を提供することを目指してきたことを強調した。ガリー教授は、国際語としての英語の重要性は認めつつも、その役割が限定的であることを指摘、個々の学生のみならず現在の日本にとっていかに多言語教育が重要であるかを語った。

このあとの全体討論では、後期課程や大学院における多言語教育の継続、留学生との交流、自然言語が必然的に内包する多様性と言語教育、そして三言語を謳う際の日本語の意味など、さまざまな話題について、きわめて刺激的な意見交換がなされた。

4時間を超えるシンポジウムを終えて、TLPが常にこうした議論を経て変化し続けてきたことを思った。そして、その変化は、教員と学生の双方からの働きかけによってつくり上げられて来たのである。範教授が「教学相長」(教える者と学ぶ者が共に成長する)という言葉を挙げておられたが、当日も壇上での発表に裏方に活躍してくれた履修生たちが、終了後いつまでもプログラムについての提案をし続ける真剣な姿が印象に残った。今年度から新たに三言語が加わって拡大するTLPで、さらなる化学変化がプログラムに活力を与え続けることを願ってやまない。

尚、TLPでは、シンポジウムに合わせて成果報告の冊子を作成した。関心のある方は、CGCSにお問い合わせいただきたい。

(地域文化研究/英語)

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