HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報584号(2016年6月 1日)

教養学部報

第584号 外部公開

<時に沿って> ある数学者の趣味

米田 剛

この4月から大学院数理科学研究科に着任した米田剛です。この教養学部報の主な読者は学部生を想定しているとのことなので、20歳前後の学生が興味をもつ題材を考えてみました。私自身、40歳を意識する年になっても、若者のスポーツと言われるスノーボードに夢中になっていることを鑑みて、ここでは「研究とスノーボード」という題材で色々語ってみたいと思います。2006年度の東大博士課程の入学式で総長が「一芸に秀でるものは多芸に通ず」と言っていたことに感銘を受けた者の一人ですが、それに通じるものがあると思います。あと、この記事で、数学者に対する世間一般のイメージが少しでも明るいものとなれば幸いです。

私がスノーボードを始めたのは、20歳を過ぎた頃だったと思います。その時は、上手に滑ることのできる友達にいきなり山頂に連れて行かれたのを鮮明に覚えています。何も知らない超初心者だったので、山頂からの上級コースが文字通り「崖」に見えました。その時はさすがに「無理!」と確信し、ササーと滑る上級者を横目に一人トボトボと歩いて山を降りました。その時の悔しさから「スノーボード」がもう一つの研究テーマとなりました(言い忘れていましたが、数理流体力学が私の本当の研究テーマです)。

当初はこけてばかりいましたが、研究者特有の粘り強さから、いつの間にかこけなくなり、上級者コースもスイスイと滑られるようになり、最終的にはジャンプ台に挑戦するレベルにまで達しました。どの「芸」でもそうでしょうが「如何に無駄な力を抜くか」というこの一点に尽きる気がします。現在のホームゲレンデは溝の口です(謎かけでもなんでもありません)。最近の研究課題は、フロントサイド540メランコリーグラブ・トゥ抜けです。板のトーションを感じながらフワッと回転する瞬間が楽しいです。バックサイドも徐々に挑戦しています。スイッチの挑戦はまだまだ遠い未来です(専門用語が多くなってきたので、説明はこの辺までにしておきます)。

これを機に皆さんに質問したいのですが、ジャンプ台を無回転のままストレートで抜けたときでも、「空中で回転したい方向に目線を向けると板が回転を始める」といったことがスノーボード界では当たり前のように言われていますが、これは物理学的にはどうなのでしょうか? 角運動量保存則により、無回転で空中に抜けてからは、もはや回転できない気がするのですが。しかし、体感的には、私もジャンプ台から無回転で空中に抜けてから回転したい方向に目線を送ると、100度くらいは回る感覚があります。この感覚は錯覚なのでしょうか? 確か、猫も背中から無回転で落下しても、空中でうまい具合に体を半回転させて地面に着地出来るらしいのですが、それと同じ原理なのでしょうか?この辺の未解決問題を是非とも考えて頂ければ大変嬉しく思います。

最後に、もしこの記事を読んで「私もジャンプ台に挑戦してみよう!」と触発された人がいるなら、最低でもヘルメットと手首ガードは着用して下さいね。それら装備なしの挑戦は、歩きスマホよりも危険です。

(数理科学研究科/数理)

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