HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報584号(2016年6月 1日)

教養学部報

第584号 外部公開

<時に沿って> 連続する時の中で

山本理奈

このたび、平成28年4月1日付けで、総合文化研究科国際社会科学専攻の助教に着任いたしました。

ふり返ると、駒場の自由な学風にひかれこの地を訪れてから、思いのほか長い年月が過ぎました。この地で友人や研究仲間と出会い、多くの先生方にご指導をいただく機会に恵まれました。いまは、この地が結んでくれたご縁の数々に、心から感謝をしています。

駒場キャンパスは、時の流れに沿って、駒寮がなくなり新しい図書館が建つなど、年々様変わりを続けています。ただ、駒場の樹木を見あげるとき、互いに顔は知らずとも、この地を共有してきた多くの方々との目に見えないつながりを、ふと感じることがあります。思えば、毎年繰り返される新歓時期の活気にあふれた構内、学生たちの高揚した横顔、その背景には、いつも駒場の新緑の瑞々しさがありました。変わり行くキャンパスの中で、現役生と卒業生を、そして現在の教員と退任された先生方を、目に見えない糸でつないでいるのは、もしかすると、こうした駒場の緑の深さなのかもしれません。

自分の研究が、決して自分ひとりのものではなく、長い系譜のなかで、先を歩む者との僅かな差異のなかに、はじめてその輪郭を結ぶものであること。言いかえれば、自分がどのような先行研究との繋がりのなかに位置づき、どこに先人との違いを生み出そうとしているのか。そうした自覚を先人への畏れとともに感じるのも、この地が想起させる目に見えぬ時間の連続性に由来しているのかもしれません。

国際社会科学専攻の学生のひとりとして、大学院に在学していた時期、私には二人の指導教官がいました。修士時代の見田宗介先生、博士時代の内田隆三先生です。見田先生が定年で退任された後、内田先生にご指導をいただきましたが、お二人のご専門はともに現代社会論です。私の専門もまた現代社会論ですが、自分の研究の基礎となる部分には、先生方に学び、そのご研究の数々に触発を受けて醸成された独自の問題意識があります。

今年度は、教養学部前期課程で初年次ゼミナールを担当していますが、専門が現代社会論ということもあり、「現代社会を考える」というタイトルをつけました。

見田先生と内田先生に直接教えを受けた学生のひとりとして、現代社会論の可能性について、次の世代に何を伝えることができるのか。そして先生方とは異なる僅かな差異(=自分自身の問題意識)を、新しい世代の学生たちにどのように提示するのか。試練の時を迎えていると書くと、緊張の度合いが伝わってしまうかもしれませんが、厳しくとも、得難い機会を与えられたと感じています。

この地で教育に携わる機会に恵まれたことに感謝し、国際社会科学専攻を下支えする日々の様ざまな業務に力を尽くし、助教の任務をつとめていきたいと考えています。皆さま、どうぞよろしくお願い申しあげます。

(国際社会科学/社会・社会思想史)

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