HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報588号(2016年12月 6日)

教養学部報

第588号 外部公開

キャリアパスと研究倫理: 自分事として語り合おう

江間有沙

去る九月二日に東京大学研究倫理ウィーク(9/1〜7)特別企画の一環として「キャリアパスと研究倫理:自分事として語り合おう」が駒場キャンパス21KOMCEE WEST 303にて開催されました。去年度の研究倫理ウィークに行われた「研究倫理教材コンテスト」で最優秀賞に輝いた教養学部後期課程(3-4年生)学生チームと東京大学科学技術インタープリター養成部門の共催で、最優秀賞を受賞した学生二名を含む学生10名(学部生3名、院生7名)と教員4名が参加しました。また、当日は幹細胞生物学を専門とする立場からSTAP細胞について論評を行ってきた八代嘉美さん(京都大学iPS細胞研究所上廣倫理研究部門特定准教授)と科学報道の記者としてSTAP細胞を扱ってきた岩井淳哉さん(日本経済新聞社大阪本社編集局、科学技術インタープリター養成プログラムの七期生)をゲストにお招きしました。

2時間のワークショップでは、自己紹介セッションを行ったのち、研究倫理の題材としてSTAP細胞事件を復習しました。その後、(1)STAP細胞事件をどう受け止めたのか、(2)研究倫理を自分事として語り合おう、の二点について三〇分ずつディスカッションを行いました。

以下、当日の報告を覆面座談会風に構成してみたのでご笑覧ください。

司会:今日はワークショップにご参加いただいた院生のAくんとBさんに集まっていただき、当日の振り返りをしたいと思います。そもそもお二人は、今まで自分の研究室で研究倫理とかの議論をしたことはありますか?

A:したことないです。善意を基にした研究環境で研究不正の話は出せないですし、お互い信用して研究している中でなぜその話題を出す必要があるのかっていう感じがします。実体験を伴って考えることができないというか。考えることは大事だと思うのですが。一方、ワークショップでSTAP細胞事件とキャリアの話をしていて、僕たち若手が論文を急いで出さざるを得ない科学界のシステム的な問題とか、科学コミュニティが直すべきところもあるのではないかなと気づきました。

B:例えば、研究室全員で今回のような倫理のワークショップに参加しましょう、というのだったら議論はできるとは思います。でも、わざわざ自分がそういう話を研究室に持ち帰って共有するというのは難しいかもしれません。話がずれますが、去年の冬に研究倫理や研究不正問題への取り組みについてディスカッションする「現代科学技術概論Ⅱ」で“The lab”(http://lab.jst.go.jp/)という、不正が起きる研究室で役になりきって選択肢を追っていくロールプレイングゲームをやって面白かったです。別の役になると「自分のあの時の行動はこう見られるんだな」とか自分事だけではなく別の視点からも考えさせられました。

司会:じゃあ、“The lab”を研究室に持ち帰って「これ面白から一緒にやって議論しましょう」とかはできそうですか?

B:それはできそうです。私は母にも勧めました。

一同:(笑)

B:うちの母みたいに科学のこととか知らない人にも、研究者の世界のことを教えられると思うんです。研究室の仲間だけじゃなくて、母とか文系の友達とかにも解説しながら一緒にやってみたいです。

司会:なるほど。研究倫理といった普段は話しにくい話題も、具体的な事例や自分のキャリアに引き付けて議論するワークショップがあったり、補助教材を使ったりしながらだと、自分事として周囲の人と議論できるかもしれませんね。ワークショップに参加してみてどうでしたか。

B:「現代科学技術概論Ⅱ」を受講したときも思いましたが、ワークショップに参加してみて、分野によって考え方が全く違うのが印象的でした。だからこそ今まで研究室「文化」という言葉で済まされてきたものが、最近は倫理という「共通の基準」が必要になってきたのかなと思いました。

A:僕は、僕は当日まで参加しようか迷っていたのですが、研究でちょっと煮詰まっていたので気晴らしになるかと思って参加したんですが。
司会:晴れましたか?

一同:(笑)

A:ゲストの方や駒場の先生もいらしていて、どういう心持で研究すればいいかとかお話しできたので良かったです。あと、研究倫理ってぼんやりしたイメージしかなかったので少しずれるかもしれませんが、STAP細胞事件を取材されていたゲストの新聞社の方が、報道するときの科学的な正しさや、報道するかしないかの線引きなど実際の悩みを話してくださったのが印象に残っています。

司会:いろんな分野や立場の人と議論することが、研究倫理に限らず自分の研究やキャリア、科学的な正しさといった大きなテーマについて考える機会にもなったようなら嬉しいです。今日はありがとうございました。

[本報告は、ワークショップに参加した学生さん5名が、後日話してくれた内容をまとめて作成しました。]

(教養教育高度化機構/科学技術インタープリター養成部門)

第588号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報