HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報589号(2017年1月 6日)

教養学部報

第589号 外部公開

音楽を聴きながら駒場を想う ─第15回ホームカミングデイを終えて─

受田宏之

卒業生とその関係者に、変貌を遂げる駒場キャンパスをみてもらいたい、駒場の変わらぬ精神を知ってもらいたいとの思いから、ホームカミングデイが毎年秋に行われている。一〇月一五日(土)、平成二八年度のホームカミングデイが開催された。晴天で爽やかな風が吹き、キャンパスとその周辺を散策するには絶好の日和だった。

駒場博物館では同日より、「東京大学コレクション『マザリナード集成』─十七世紀フランスのフロンドの乱とメディア─」の展示が始まった。仏、フロンドの乱(一六四八─一六五三)の際に出版された膨大な量の印刷物について、その資料としての価値、歴史的背景と意義、多様性が手際よく示されている。絶対王政成立前の混乱の時代に、様々な階層のフランス人たちが何を考え、何を欲していたのかが生き生きと伝わってくる展示であり、ホームカミングデイにふさわしい好企画であった。

最も華やかな企画は、現役学生による選抜学生コンサートである。今回は一五名もの選りすぐりの東大生が、午前、午後の二部に分けて演奏を行った。東京大学所有のスタインウェイのピアノを用いた演奏では、プロ顔負けの繊細なタッチの演奏あり、芸大生との見事な弦楽五重奏あり、力強さや優しさなど個性の際立つ演奏ありと、各々魅力ある演奏を堪能することができた。ピアノ以外にも、バイオリン、フルートやチューバの高度な演奏、さらには独語と伊語でのデュエットも聴くことができ、会場を埋め尽くした聴衆には至福のひとときであった。一つの面白い発見は、ピアノ演奏者一一名のうち一〇名が理科系の学生だったことである。ショパンやリストを弾きこなすには論理性と忍耐力が要求されるから、理科系の方が向いているのかもしれないなどというのは、文系で音感にも欠けた人間の思い込みなのだろうか。

締め括りは、ファカルティハウスのセミナー室で開催された「ベテラン会」の懇親会である。駒場で教鞭をとられた二九名の先生方が出席してくださった。彼らに、現役の駒場教員と事務職員、選抜コンサートの参加学生が加わり、ワインを飲みながら歓談したり、近況を語り合ったり、音楽の演奏を楽しんだ。盛り上がった話題は、駒場の「ベテラン」でもある大隅良典・東工大栄誉教授のノーベル賞受賞であり、大隅先生の先輩にあたる出席者から、現役の教員と学生を励ます貴重なご発言もあった。最後は、小川桂一郎・教養学部長の独唱「サンタ・ルチア」を聞いて閉会となった。駒場キャンパスが空間的にも時間的にも実にたくさんの人たちや社会と結び付いていることを改めて感じると同時に、音楽の力を思い知らされた一日でもあった。

(学部長補佐/国際社会科学/スペイン語)

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