HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報590号(2017年2月 1日)

教養学部報

第590号 外部公開

学生の声解き放つFLOW

板津木綿子

東大に入学してくる学生の英語力について一般的に言えることは、全国平均に比してずば抜けた読解力、聴解力を持っているが、ライティング力とスピーキング力についてはまだ向上の余地があるということである。入試では読解と聴解、英作文を中心とした学力審査を実施しているのであるから、読む・聞く・書く・話すから成る四技能の習熟度に偏りが生じているのは当然かもしれない。

こういった偏りを是正するために二〇一五年度からFLOW(フロー)は始まった。FLOWはFluency-oriented workshopの略で、英語でのスピーキング力を涵養するための授業である。一年次の英語必修科目として、いずれかのタームに一度履修する。なお、ライティング力の向上は二〇〇八年から理科生対象に始まったALESSプログラム、二〇一一年から始まった文科生対象のALESAプログラムなどを鍛錬の場としている。

スピーキング力の涵養と一言で言っても、単なる英会話授業ではない。FLOWの目的は、以下の通り四つある。

①スピーキングの流暢性と自信の涵養
②議論の流儀習得
③スピーキング力における自己省察力の習得
④自律学習の方法習得

話すことに苦手意識を持っている学生は多いが、苦手にしている理由はさまざまである。発音、すぐに返答する瞬発力、正確に伝達する力、英語での論の立て方、説得力のある話し方など、何を伸ばしたいのか自分で省察できるようになれば、授業履修後も継続した自学が可能になるという考え方である。

たった七週間の授業ではスピーキングの流暢性自体に顕著な変化がないことは言語教育の世界では自明であり、流暢性の向上はFLOWの学習目標の一つにすぎない。七週間という短い期間でいかに学修効果とその定着が見込めるカリキュラムを構築するか、これが本科目の最大の焦点であり、苦心するところである。

流暢性は話すことでしか向上しない。一クラス十五名の少人数に押さえ、一人一人の話す時間を最大限とる。習熟度別を導入しているが、学生による自己査定方式を取っており、学生は同等の習熟度を持つ学生と気兼ねなくのびのび発話練習をしている。この自己査定方式は言語教育でも珍しい方式であるが、心理的影響に左右されやすい発話練習において奏功していると、学生・教員共に認めるところである。
授業はALESS/ALESAを担当する主としてネイティヴスピーカーの特任教員が担当している。特任教員は博士号を有する方ばかりで、自然科学、社会科学、人文学と幅広い専門的知識を授業に織り込んでいる。

常勤特任教員がALESS/ALESA/FLOWの授業を教えていることのメリットは幾つかあるが、一つはファカルティ・デイベロップメント(FD)活動に注力できることである。当該特任教員は、基本的にはALESS(もしくはALESA)とFLOWの二科目のみを毎学期七コマ担当している。科目の教育効果を振り返り、精度を高めるには絶好の形態である。

昨年は教養学部附属教育研究データ分析室に依頼し、前期課程英語科目の成績分布と授業評価について分析をするなど、カリキュラム評価も積極的に行っている。二〇一七年一月三十日には海外からカリキュラム評価の専門家を招聘し、FDの成果をシンポジウムとして発表した。
では、学生はFLOWをどう受け止めているのか。英語で話す練習に抵抗を示すのではと案じていたが、圧倒的多数がFLOW導入を好意的に受け止めており、驚いている。東京大学新聞の調査でも英語科目の中でもっとも満足度の高い科目として報じられた。(「実践的な授業好評」東京大学新聞二〇一五年十月六日付)同記事の学生コメントを引用すると、「FLOWでは討論やプレゼンテーションを通じ人前で英語を話す度胸がついた」「人の意見を理解する、自分の意見を話す力が向上した」などとある。

学部の授業評価に加えて、FLOW独自の無記名自由記述式アンケートを実施しているが、「高校までは受験対策ばかりで発話練習の機会がなかったので、ようやく大学で発話練習ができて嬉しい」「話せないと思っていたが、練習したら案外話せることに気づいた」「ターム科目ではあっという間なので、セメスター科目にしてほしい」などの意見が多い。逆にFLOWを否定的に捉えた学生は独自アンケートでも驚くほど少ない。そもそも高い語彙力、文法力をもつ学生達は発信する練習を積む機会を渇望していたようだ。

(言語情報科学/英語)

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