HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報592号(2017年5月 2日)

教養学部報

第592号 外部公開

<時に沿って>専門性を活かす貢献

キハラハント 愛

本年一月に総合文化研究科、人間の安全保障プログラム付の准教授として駒場に赴任しました、キハラハント愛と申します。専攻は地域文化研究に所属しております。駒場に赴任する以前は、一九九九年より、様々な国連の機関で勤務してきました。特に長くおりましたのは国連平和活動(東ティモール)と国連人権高等弁務官事務所(ジュネーブ、ネパール)です。一九九九年に国連の職員として紛争後の東ティモールに入った際に、衣食住も十分にない住民たちが事務所の前に辛抱強く列を作って並び、口々に私たちに訴えたのが、「人権侵害の調査をしてほしい。いなくなった家族を探してほしい。」ということでした。これには私たちは非常に驚き、この経験が、まだ未確定だった私の専門を国際人権法に決定するきっかけとなりました。

以来、主に、国際人権法を適用して紛争から立ち直る国・社会の再建を支援する仕事をしてきました。東ティモールでは紛争中対立していた住民たちが紛争後に和解する過程と、「移行期の正義」と言われる、紛争中の人権侵害や重大な犯罪についての司法プロセスの支援を主に担当しており、ネパールでは警察学校のカリキュラム改正など、治安部門改革の仕事をしてきました。その中で痛感したのが、高度な専門知識とプロ意識を持つ専門家一人ひとりができることの大きさと多様性です。これは、逆に言えば、そうでない人が専門家として国家・社会の再建に関わることの危険性でもありました。

アカデミアに戻ってきたのは、そういった現場の経験から、より狭域のテーマについて、より深く時間をかけて研究してみたいと思ったからでした。イギリスのエセックス大学で国際人権法の博士号を取り、続いて関連の研究、本・学術論文の発表をしましたが、すると、より深くアカデミックな世界に浸ってみたくなりました。また、私が同大学で博士課程に在籍していた間、指導教員の先生方の熱心な指導により学び得たことを、ぜひ大学院で学ぶ次の学生さんたちに受け継ぎたいと思いました。そんな折、この教員募集の公募を拝見し、これだと思いました。それまでも、イギリスの大学で講義を行ったり、日本の大学で集中講義を受け持ったりしたことはありましたが、実に二十年ぶりの日本での常勤の仕事ですので、もちろん不安もありましたが、色々な分野の先生方と、学術的に自由な駒場という場所で一緒に仕事をできるということがとても魅力的でした。

駒場に赴任してみると、周囲の先生方が一人の研究者・教員として受け入れてくださり、研究においても、授業や学生の指導においても、また、大学の運営に関する任務に関しても、特に詳細のマニュアルもないかわりに、自分なりに試行錯誤して貢献していけるような環境があるようで、感謝しております。外から入って来ましたので、まだ慣れないことがたくさんあり、ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

(地域文化研究/法・政治)

第592号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報