HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報592号(2017年5月 2日)

教養学部報

第592号 外部公開

<後期課程学部案内> 理学部

学部長 武田洋幸

理学はホットでクール!
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/

理学は、自然界の普遍的真理を解明することを目指し、自然界に働く法則や基本原理を探求する純粋科学である(理学部憲章より)。「自然」と向き合って、背後に潜む心理や法則を追求するプロフェッショナルな集団が理学部です。小さい頃、夜空を眺め宇宙の遠くで起こっていることに想いを馳せ、野山に出かけて生き物の多様さに目を見張った経験はだれでも持っていると思います。実は私も含めて、そのような感動を今も持ち続けて、研究、教育に情熱を燃やしている知のプロフェッショナル集団が理学部なのです。ホットでクールと思いませんか。

自然現象は極めて多彩で、それらほぼすべてをカバーする数学科、情報科学学科、物理学科、天文学科、地球惑星物理学会、地球惑星環境学科、化学科、生物化学科、生物学科、生物情報学科の十学科で構成され、それぞれ先端的な研究を行い、それらに基づいて教育を行っています。理学の研究動機は、知的探究心(好奇心)です。物質を構成する素粒子から、細胞や生物個体、地球規模の生態系、そして宇宙へ、我々の探究心はとどまるところしません。探究心に基づいた研究は人類が営む崇高な創造的活動の一つで、人類の知性の根幹を成すものです。小柴先生(ニュートリノ、二〇〇二年)、梶田先生(ニュートリノの質量、二〇一五年)、大隅先生(オートファジー、二〇一六年)のノーベル受賞は記憶に新しいですが、いずれも人類の知の地平を拡大する画期的な成果に対してであり、まさに理学の神髄というべきものでした。三名の先生は私たち理学部の先輩または一定期間理学部に在籍されていました。

残念ながら昨今は、すぐに役に立つ研究の方が重視される傾向があります。しかし歴史を振り返れば一見役に立たないと思われる理学の研究こそ、人類社会に強いインパクトを与えてきたことは明白です。即ち、自然への深い理解と知見によって、人類は自然観・宇宙観を深化させ、そしてそれらをシーズとして、人類社会を変革し、豊かにする科学技術を生み出してきました。例えば、ダーウィンの進化論が研究現場だけでなく人々の考え方を変え、量子論がエレクトロニクスの基礎を築き、地球の理解が身近な地震、気候温暖化の課題解決に役立ち、化学や分子生物学の発展が医療革命をもたらしました。一方、繁栄した人類社会は現在地球規模の多くの難問に直面しています。資源の枯渇、自然災害、環境破壊、気候変動などです。これらの問題に対しても、多様な切り口を持ち、事象を深く理解する理学への期待が高まっています。

理学部の付属研究施設には、木曽観測所(天文台、長野県木曽郡)、植物園(都内および栃木県日光市)、臨海実験所(神奈川県三浦市)などメインキャンパスから離れているものがあります。実は、理学の研究・教育活動は研究室の中だけには留まらないのです。私は二〇一三年に南米チリ共和国北部にある理学系研究科天文教育研究センターの天文台を訪れたことがあります。この天文台は標高五六四〇mのチャナントール山の山頂にあり、天文台としては世界最高地点です。この場所で地上の望遠鏡からでは観測が困難であった赤外線を観測し、銀河や惑星の起源を探っています。当時既に小型の赤外線望遠鏡が設置されていましが、現在さらに口径六・五mの大型望遠鏡(TAO, The University of Tokyo Atacama Observatory)の設置が進んでいます。観測に最適な場所を求め、人が立ち入ることが難しいこの山を見い出し、山麓から道を作り、山頂に機材を運んで作ったものです。現地で観測に従事する理学部の学生や同僚の姿を見て、真理を追究するための飽くなき執念と情熱を感じ、理学部の一人として彼らを誇りに思いました。このように理学のプロフェッショナル集団は、山の頂きから、水深数千メートルの海底・海溝、そして極地から熱帯地域まで、世界の果てまで、フロンティアを目指して活動しています。

最後に理学の研究には国境がありません。学生の皆さんが行う研究成果も英語で世界へ発信されるでしょう。特に学生の国際交流支援は重要と考えています。そのための準備として、理学部は様々な国際交流プログラムを用意しています。すでに、優秀な学部生を海外に派遣するSVAPプログラムや海外の優秀な学部生を選抜して受け入れるサマープログラム(UTRIP)を実施しています。さらに平成二十六年度からは、日本人及び外国人編入生を対象とした英語講義による学部後期課程コース「グローバルサイエンスコース」を、平成二十八年度には、英語だけで学位が取得できる国際卓越大学院コースを新設しまた。異質な文化に触れ、世界を肌で感じ、世界へ羽ばたけるような教育を実現しています。

私は理学部の代表として、探究心に根ざした多様で息の長い研究をサポートしていきます。皆さん、ホットでクールなプロフェッショナル集団の一員として、新たな発見を求めて、理学の世界を探検しませんか。

(理学系研究科長・理学部長)

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