HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報593号(2017年6月 1日)

教養学部報

第593号 外部公開

<TLP四カ国語 研修報>台湾研修でたくましさを 増した東大生たち

阿古智子

TLP中国語コースの中国語研修はこれまで、二年生向けの南京、後期TLP向けの北京と中国大陸で実施してきたが、今回初めて台湾が研修先に加わり、一年生十二名が参加した。台湾の歴史や文化を幅広く学ぶことを主な目的とし、北から南まで五都市を回る旅程を組んだ。
各都市ではまず大学を訪問した。台湾大学(台北市)では日本学研究センター長の徐興慶教授が、国立成功大学(台南市)では歴史学部の陳文松准教授が、台湾の歴史と文化についての講義と学生との交流の場を設けて下さった。陳文松教授は本学で博士号を取得しておられる。国立清華大学(新竹市)では日中韓台の研究者と社会活動家が参加する会議を傍聴させてもらい、淡江大学(新北市)では日本語学科の富田哲准教授のご協力を得て、村上春樹研究センターで曾秋桂所長からお話を伺うことができた。国立中正大学(嘉義市)では国際戦略研究所の林泰和所長、蔡育岱教授、北海道大学で博士号をとられた法学部の李仁淼教授がキャンパスを案内して下さり、社会科学院の宋学文院長が私たち全員を夕食にご招待下さった。

国立政治大学の薛化元教授は、景美人権文化園区(台北市)で二・二八事件や白色テロについて講義をして下さった。台湾では一九四〇年代後半から八〇年代にかけて、国民党政権下で恐怖政治が行われ、特に、本省人の知識分子や左翼分子が徹底的に弾圧された。薛教授は、そのうちの一人で、一九六九年から十年に及ぶ監獄生活を強いられた陳中統さん(八十歳)を紹介して下さった。陳さんは岡山大学医学部に留学した経験があり、岡山訛りの(岡山出身の学生曰く)愛らしくかつ正確な日本語で、ご自身の経験をお話下さった。二〇〇二年につくられた景美人権文化園区は、当時の警備総司令部軍法処、政治犯を収容する看守所、国防部軍法局などの建物を見学者に公開している。陳さんも当時、その看守所に収監されていた。

台北市ではこのほか、二・二八博物館、慰安婦博物館、迪化街、寧夏夜市、総督府、台湾賓館などを訪れた。新北市では、淡江大学の学生さんたちとレンタサイクルで淡水市街を回った。野柳地質公園、十分、金瓜石鉱山、九份でも、地元の学生さんたちに案内してもらった。嘉義市では嘉義公園、二二八記念碑のほか、嘉義大学にも立ち寄った。台南ではオランダ東インド会社が築いた安平古堡、赤崁楼などの旧跡のほか、台湾文学館にも足を伸ばした。

このように盛りだくさんの内容だったが、学生たちは朝から晩まで精力的に動き、引率者として彼らをたくましく感じた。途中で腹痛や車酔いを訴えた学生は、自ら服薬や水分補給で体調を整えていた。ホテルの部屋の水漏れで、スーツケースや中に入っていた服、充電器が浸水被害にあった学生は、すぐにホテルに被害状況を確認してもらい、部屋の交換、服のクリーニング、宿泊代の一部返還の交渉に成功した。
学生たちは、台湾がどのような経緯を経て、現在のように複雑で多様な社会を構成するようになったのかを学び、歴史や国際関係に対する関心を大いに高めた。行く先々で野鳥を観察して特徴を記録している学生や、犬の飼い方や中国語での呼び名に注目してメモを取っていた学生もおり、ユニークな視点に感心させられた。手のひらほどの大きさのカエルなど、屋台の珍しい食べ物を食べ続けて、台湾を理解しようとした強者もいた。彼はその過程で驚くべき事実を発見してしまうのだが!

(国際社会科学/中国語)
 

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