HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報593号(2017年6月 1日)

教養学部報

第593号 外部公開

<TLP四カ国語 研修報告>ロシアの大地へ羽ばたく

渡邊日日

昨年度からロシア語TLPが始まり、授業カリキュラムの構築に追われるなか、海外研修を行う可能性が浮上した。誠に喜ばしい話ではあるが、ロシア連邦の場合、ビザ制度が持続しており(他の旧社会主義圏では三ヶ月以内の渡航であればビザ不要という傾向になっている)、事務手続き的煩雑さに悩まされながらも、我々教員は嬉しい悲鳴をあげざるを得なかった。

最初の課題は行き先の選定であった。言うまでもなくロシアは広大な土地を有する国であり(地球の居住可能面積の約八分の一を占める)、行き先がどこになるかで学生の印象も大きく変わるだろう。日本語を学んでいる学生との交流を考え、研究・教育の水準の高さと日本語教育の伝統双方の観点から、サンクト=ペテルブルグ、モスクワ、ノヴォシビルスク、ウラジオストクの大学が候補となったが、サンクト=ペテルブルグ大学を語学プログラム研修先とし、首都モスクワについてはトランジットのとき許す時間の限り見聞することにした。言うまでもなくサンクト=ペテルブルグ(旧レニングラード)はロシアの古都であり、西欧への窓であり、近代化のシンボルであり、学術・芸術の中心地であり、第二次世界大戦では九〇〇日近くの包囲戦に耐えた激戦地である。学生たちが学ぶべきことは十分すぎるほど多い。

筆記試験と面接を踏まえ、本人の予定なども考慮した結果、研修者は総勢十一名となった。駒場で何度も事前講習会を行い、クセーニヤ・ゴロウィナ特任講師および宮川絹代助教(当時)の引率のもと、三月五日から三月十四日の間に当研修は行われた。基本的には、午前中に、サンクト=ペテルブルグ大学にて本受講生のための特別編成授業に参加し、主にスピーキングとリスニングの特訓を受けるプログラムである。成田を出発してその日のうちにペテルブルグに到着し、次の朝早くからネイティヴ教員の授業の連続というのもハードなスケジュールだったが、そこは若さが取り柄の学生たちは乗り切ったようである。午後は、毎日様々なイベントが設定され、大学博物館やエルミタージュ美術館の訪問、マリンスキイ劇場でのバレエ鑑賞やフィルハーモニーでの祝賀コンサートなど、見聞の限りを尽くした(自分が大学一年生のころはソ連末期、崩壊を数年後に控えていた時期であり、交流が中断した世代であるゆえ、隔世の感があるといっても主観的には大げさではない)。

海外研修で特筆すべきはやはり現地での交流であろう。今回、研修者は、ペテルブルグ大学の日本語学科(ロシアでとくに進学が難しいところと聞いている)の学生やプーシキン市のギムナジウムの生徒と交流する機会を持った。その場に居合わせていないゆえ断言できないが、いくらインテンシヴ・コースなどで日頃多くの時間をロシア語学習に費やしてきたとはいえ、まだ始めて一年もないロシア語である(残念ながらロシア語は学ぶべき項目が多く、一年の最後の授業でようやく基礎文法が終わるというペースにならざるを得ない)。流暢に会話が進んだとは想像しにくい。だが、現地で自分がどれだけ知識が少ないかを実感(習得しようとする言語の場合、「唇と舌先のレベルで物理的に体感」と言っても良い)し、いわゆる「無知の知」を痛烈に自覚することは、その後の学習において大きな起爆剤となろう。

今年度、ほぼ同数のTLP一年生が誕生し、研修に行った者の多くはTLP二年生となった。昨年度の経験を活かして教育内容・方法を更新しつつ、修了生を出そうとする今年度の課題は山積みである。左に参加学生の知的満足心に満ちた顔を想像しつつ、右に皆様のご声援・ご支援に感謝しつつ、前進するのみである。

(超域文化科学/ロシア語)

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