HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報593号(2017年6月 1日)

教養学部報

第593号 外部公開

<時に沿って>変わりながら変わらない

川崎義史

四月より、言語情報科学専攻の講師として着任しました川崎義史です。学部から大学院まで十年以上過ごした駒場に戻ってこられたことを嬉しく思うとともに、身が引き締まる思いです。

私の専門は、スペイン語の歴史的変化と地理的変異の計量的分析です。博士論文では、綴り、動詞の活用パターン、語順などの言語的特徴に注目して、中世スペイン語公証文書の作成年代・作成場所を統計的に推定する方法を提案しました。この手法により、比較的小さな誤差で、いつ・どこで公証文書が書かれたかを推定することが可能になりました。

今後の研究テーマの一つは、中世スペイン語訳聖書(主に旧約聖書)の計量的分析です。一ダース程の写本から成るパラレルコーパスから、各写本の翻訳パターンをあぶり出すことを目指しています。これには、中世スペイン語はもちろんのこと、原典のヘブライ語やラテン語、自然言語処理など複数の分野の知識・技術が必要となります。自分の専門分野の外に足を踏みだすには勇気がいりますが、常に新しいことに挑戦する精神を忘れずにやっていきたいと思います。

もう一つの研究テーマは、一般言語学的なもので、言語変化のメカニズムです。同一の言語でも、年代、場所、性別、年齢、社会階層などに応じて、発音、文法、語彙の変異が存在します。一体性を保ちつつも変異が生まれてくる、もしくは、変異が生じつつも一体性を保ち続ける言語の変化のメカニズムを、多少なりとも、解明することを目標としています。具体的には、先行研究にもとづき何らかのモデルを仮説として作り、シミュレーション技法により検証することを考えています。この研究も、言語学、ネットワーク科学、シミュレーションなど複数の分野の知見を必要とします。大風呂敷を広げてしまっているかもしれませんが、人文系から理学系まで様々な分野の専門家が集う駒場という環境を存分に生かして、この研究テーマを進めていきたいと思います。

思い返してみると、元々は国際関係史を勉強したいと思い、文Ⅲに入りました。スペイン語は第二外国語でしたが、特に興味があったわけではありませんでした。ですが、大学一年の夏学期に取った英語史の授業をきっかけに、国際関係の歴史から言語の歴史の方に興味が移っていきました。その後、色々な先生方との出会いもあり、スペイン語の歴史的変化と地理的変異の計量的分析を専門にするようになりました。様々な出会いや出来事により、当初の予定は変わっていくものです。変わっていくことは、時に困難を伴いますが、その過程も楽しんでいけたらなと思います。駒場での、皆様との新たな出会いを楽しみにしています。

(言語情報科学/スペイン語)

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