HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報594号(2017年7月 3日)

教養学部報

第594号 外部公開

<時に沿って>出会い

会田茂樹

カーネーションというNHKの朝のテレビドラマでは、花ことばが毎週のサブタイトルになっていました。ドラマの主人公、糸子が子供の頃、最初は岸和田のだんじりの乗り手になりたいと願っていましたが、女だということで、その願いはかなわぬ運命にありました。その後、糸子が、知り合いに連れられて行ったパーティーで、ドレスを着た女性を見て、洋服に魅せられるというのが第一週のストーリーで、その週のタイトルが「あこがれ」でした。子供の頃のその強い印象、憧れの想いが、主人公の生涯の仕事を決めるということがタイトルからもはっきりとわかりました。

私は数学、特にその中の確率論と呼ばれる分野を中心に研究している者です。小学生の時から、算数は好きな科目でしたが、カーネーションの主人公のようにドラマチックな数学との出会いがあったわけではありません。それでも、もし、この出会いが無かったら、研究者として、現在の自分があっただろうか? という出来事はあります。

少し過去を振り返って見ましょう。私は東京生まれ、埼玉県育ちで、東京工業大学数学科に入学しました。

大学入学前から、確率論に関心を持っていました。それは、場合の数や様々な事象の確率の巧妙な計算それ自身の面白さと日常生活で自然に出会う素朴な問題の答えがわかるということからで、確率論の最前線に関する事は何も知りませんでした。確率論と偏微分方程式論などの解析学との関係、確率論と物理学などの諸科学との関係、伊藤清という日本人の世界的な業績などを知り、高校の時に関心を持った側面のみでない確率論の広がりを感じたのは、大学一・二年の時でした。小さな糸子と同じようにあこがれを持ったわけですが、当時、東工大では、確率論を専門とする先生は数学科ではなく、応用物理学科に在籍していました。その関係で、数学科の先生に応用物理学科の確率論の先生を紹介して頂き、四年の時に、この二人の先生のセミナー指導を受けることになりました。大学院は、自然な流れで、応用物理学科の先生の研究室で面倒を見てもらうことになったのですが、先生が長期海外出張で不在になるとのことで、急遽、東大数学科の先生の修士一年のセミナーに非公式に参加させてもらうことになりました。実は、私の研究内容は、東大で指導して頂いた先生の影響を一番強く受けています。この出会いが無かったら、私の研究内容は違った物になっていたかも知れません。

この文章の読者はまだ若い方が多いと思います。これから、色々な出会いがあるでしょう。それを良い物にできるかどうかは、その人の生き方によるでしょう。私は、この四月に東大数理に着任しましたが、実は、ほぼ三〇年ぶりの首都圏での生活になります。若干、浦島太郎状態ですが、自分もまた、ここで新しい出会いがある身なのだと改めて実感している所です。

(数理科学研究科)

第594号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報